秘密組織と戦うK君

緋雪

第1話

 そう、あれは、皆が「夢」を見ていた中学2年生のこと。


 ある朝、彼は理科室にいた。


 朝の学活が始まる前に、理科室に忘れ物を取りに行った私は、不審な動きをしているK君を見つける。

「何やってるの?」

 隣のクラスで、話したことはなかったが、私の仲の良い友達の友達だったので、思わず声をかけてしまった。

「爆弾を、探しているんです」

「は?」

「この学校の理科室に爆弾がしかけられているという情報を得ました」

「え? え……あの、一緒に探しましょうか?」

「助かります!」

 いや、助からんだろう。素人巻き込んじゃダメだろう? 大体君は何なんだい?

 ……そんな大人的思考は、やはり「中学2年生の病気」にかかっている私にはなかった。

「どんな形をしているものなんですか?」

「これくらいの大きさの……いえ、見たことのない箱状のものを見つけたら教えて下さい!」

「どこにあるんでしょう?」

「さっきから探しているのですが、見つからなくて……」

 私は時計を見た。学活5分前だった。

「あの……学活始まりますけど?」

 中学2年生は、爆弾より学活が大事だ。

「どうぞ、先に行ってください。僕はもう少し探します」

「はあ。じゃ、頑張って下さい」

 爆弾と彼を残して、私は教室に戻った。


 昼休み、廊下で彼、K君を見つけて話しかける。

「あ、爆弾どうなりました?」

 お気軽すぎる。

「ええ。あれはガセ情報だと連絡が入りました。ご迷惑をかけてすみませんでした」

 K君は、辺りを見渡しながら、小声で答えると、そそくさと去って行った。


あや、あいつ、ヤバいから関わらないほうがいいよ?」

 彼と同じクラスの葉子ようこが言う。幼稚園からの幼馴染だ。K君と同じクラスだった。

「ヤバい? 何が?」

「変なの。ちょっと独特過ぎるっていうか」 

「どういう意味?」

「あいつさ、給食係なのね」

 給食係。爆弾を探している給食係。

「この前ね、給食中に凄く騒々しかった日があったのよ」

「う、うん」

「そしたら、あいつさ、教壇に立って『僕は給食係です。皆が静かに食べてくれないのなら死にます!』って、フォークで手の甲を刺そうとしたの!」

 手の甲を刺しても死にはしないと思う。

「ふーん。珍しい人だねえ」

「あんた騙されやすいんだから気をつけなよ」

 何をどう騙されるんだろう? 無知でピュアな私は、何も気付いてなかったのだ。


 内野君と松田君は、私と仲の良い友達だったが、K君とも友達だった。


 私は彼らにK君のことを聞いた。


「あいつは、少年警察なんだ」

 内野君が真面目な顔で言う。

「少年警察?」

「そう、中学生に紛れて、『ブツ』の取引きをするやつらがいるんだって」

 松田君も言う。

「それで、Kも、少年警察から、ここに配置されているんだ」

「え? でも、K君って中学生だよね?」

「いや、奴は俺らより4つ年上だそうだ」

「そうなの?!」


 少年警察。そんな組織は聞いたことがなかった。


 家に帰って、母に聞く。

「ねえ、K君、少年警察らしいの。4つ年上でね、うちの学校を守ってるらしいの」

 母はきょとんとした顔をし、すぐに鍋の方を振り返り、背中で言った。

「聞いたことがないわねえ。それ、何してる所?」

「中学生に紛れてる秘密組織のやつを見張ってるらしいよ」

 必死で説明する私に背中を向けたままで、

「ふ〜ん。放課後何してるの、その子?」

「さ、さあ……よく知らない」


 次にK君に会ったときに聞いてみた。

「内野君から、『少年警察』について聞きました」

「そうですか」

「『少年警察』は、放課後何してるんですか?」

「主にボランティアを。昨日はクレヨンを作りました」

 クレヨンを作る『少年警察』。


 

 そのうち、内野君と松田君と私の友人、水谷みずたに香苗かなえと私は、K君のボランティア活動に参加するようになった。

 私達は、K君が少年警察だということを疑わなくなっていた。

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