スマホを落としたメリーさん
笠本
スマホを落としたメリーさん
「もしもし」
「よかったー、番号合ってた! 私メリーさん。いま駅前のマグルスにいるの。すぐ来てくれる? あっ、お金も忘れないで。いま新発売の縦置きバーガーがキャンペーン中な――― ツーー」
僕が街中の書店で買い物をしていたときにかかってきた知らない番号からの電話。
出てみたら相手は旧知の間柄のメリーさんだった。公衆電話からだったのか、すぐに切れてツーという電子音だけが残る。
メリーさんは日本で知らない人の方が少ないくらいの有名人。
『私メリーさん、いま―――にいるの』
のフレーズでおなじみ。都市伝説のメリーさんその人だ。
顔はほとんど知られていないだろうけど、目鼻立ちがぱっちりとした金髪の美少女だ。
そんなメリーさんとただの高校生の僕との関係は置いといて。
書店から歩いて5分ほどの駅前のハンバーガー屋、全国チェーンの『マグルス』にやってきた。
店に面した歩道には今では珍しい公衆電話がある。その横に仁王立ちしていたのがメリーさん。
「おう
「メリーさん、どうしたのその格好。イメチェン?」
こないだ一緒に遊んだときは白いワンピース姿がまばゆいお嬢様ファッションだったけど、今のメリーさんは紺色のセーラー服を着ていた。
「おうよ、似合ってんだろ」
ぶっきらぼうなメリーさんのセリフだが、いまの外見には合っていた。
スカートは足首まで伸びたロング。上着の裾は肘までまくしあげられている。シャツの首元は開かれて、それでも赤いリボンは緩められながらも胸元に位置して。
化粧も目の周りをくっきりアイライナーで囲って、唇には濃いめの赤い口紅をさして。
その姿はキレイとか美少女だとか言うより、一言で言い現せば、
「ヤンキーじゃん」
リアルで見たことはないけど、コントやドラマや漫画でおなじみの田舎の不良娘ファッション。
そんなメリーさんは僕の横に立つと、肩をがしりと組んできた。
小柄な僕とヤンキースタイルのメリーさんという構図は、周囲から見るときっとカツアゲされているように見えるんじゃないかな。
するとメリーさんはニヤリという顔で言った。
「まあまずはハンバーガーでもおごってくれよ」
ほんとにヤンキー少女にカツアゲされました。
****
「えっ、スマホを落とした?」
「おう、新作バーガー注文してスマホ払いしようとして無いのに気づいたんだよ」
マグルスの店内に入って新作の縦置きバーガーのセットを二人分注文して、店内のテーブル席に座った僕ら。
そこで説明されたのがメリーさんがスマホを落としたということ。どうりで公衆電話からかけてくるわけだ。
「まいったぜ、最近は買い物は全部スマホ払いにしてて現金は持ち歩いてなかったからさ。いやあハイテクに浸りきっちゃっていざというときに困るのは現代っ子の病理ってやつだよな」
なんか全然困った風じゃなく、誇らしげに言うメリーさん。まあ都市伝説の住人であるメリーさんがスマホを手に入れるまでの苦労を知ってるから、無理もないなと思うけど。戸籍からしてないからね。
「それよりハンバーガー食べてる場合じゃないんじゃ? 早く探しにいかなきゃ。最後に使ったのはどこ?」
「30分くらい前に大通りで信号待ちしてるときにエゴサしたのが最後だな。そっからはあちこち駆けずり回ってたからさっぱり分かんねえや。でも大丈夫だって、そのために
「まあ、てっとり早くはあるけどさ」
僕は自分のスマホを操作し電話帳からメリーさんの番号を選択。コール中の表示がされるが、いつまで待ってもメリーさんのスマホが応答することはなかった。
「出ないか……」
「誰かが拾ってくれてるなら良かったけどな じゃあスマホを探すサービスを使ってくれよ」
とメリーさんがワクワクしながら言った。
地図アプリを開けば分かるように、スマホはGPSやネット回線を利用して自分の現在位置をリアルタイムで知ることができる。その位置情報は他のスマホやパソコンで確認することができるのだ。
その機能を使って紛失したスマホを探すサービス。僕やメリーさんのスマホには標準でそのサービスが利用できるようになっている。
「最新技術を使ってみたかったんだね」
「いいだろ。ほら、早く早く」
スマホを落とした不安感より、この機会にスマホの高機能を試せる期待感が勝ってるらしい。思えばスマホを手に入れて初日で手当たり次第にアプリを入れまくって、容量が無くなったと泣きついてきたのがメリーさんなのだ。
まあ正直その気持はわからなくもない。僕はさくさくとスマホを操作して該当のサービスを呼び出した。
ただ実際に使うのは初めてなので、オプションで設定を変更しろとか、専用のアプリをDLしろとか、メリーさんのスマホのIDやパスワードを入れろとか、いろいろ要求されて結構時間がかかりそうな感じ。
DL中のマークが回転するのを見ながら、僕は届けられた新作バーガーを口にしつつ尋ねる。
「ところでメリーさん、その格好なんなの? コント?」
「違えよ。このメリーさんは都市伝説で食ってんだぜ。こいつはズバリ純情ヤンキーってやつさ。ヤンキーだけど実は純真な良い子。このギャップに人は噂せざるを得ないって寸法よ。こいつで私は伝説になる」
ズバッと決めたメリーさん。
現実では既に絶滅したヤンキー少女。その上さらに内面は純情で優しいという属性を加えるなど、現実ではありえない、まさに
「都市伝説業界も大変だね」
そうなのだ。メリーさんのような都市伝説の住人は人に噂されなければ存在できない。いや、普通は存在するから人に語られるものだけど、メリーさんたちは因果が逆。
人の口にのぼらなければ消えていってしまうのだ。
とはいえスマホやネットの発達した情報過多な現代において噂の賞味期限はすごく短い。現代人はメリーさんの恐怖を噂するだけでは生きていけない。
クラスメイトの恋模様、人気配信者の裏の顔、カードゲームの新ロットの入荷状況、今年の模試の出題傾向、等々。口にするべき噂を数多く抱えているのだ。
そこでメリーさんは多角化経営に乗り出した。老舗の地位にあぐらをかかずに現代に生まれた新たな都市伝説を果敢に取り込んでいってる。そうすることで怪異としての存在力を確かなものにしているのだ。
メリーさんは今のヤンキーファッションを誇るように言った。
「今日はこの格好で街中で善行しまくったんだ。迷子の子供の親を一緒に探したり、木に引っかかってた風船とったり、川に流されてた猫を拾ったりとか」
「半日からそこらでそんなテンプレトラブルに遭遇できたことにビックリだよ」
「あと横断歩道で渡れなくて困ってたばあちゃんを助けたらさ、ご褒美に10円もらったぜ」
「よかった。公衆電話のお金はどうしたんだろと思ってたんだけど、それだったんだ。もし中学生とかからカツアゲしてたらどうしようと心配で聞けなかったんだよね」
「やんねーよ。こっちは商売でヤンキーやってんだぜ」
役に入り込むタイプのメリーさんが大口を開けて威嚇するように抗議してきた。そして椅子にふんぞり返る姿勢になって言った。
「なあ、知ってるか、晴大と瀬戸優輝の成分は同じなんだぜ」
「なに、突然? 声おおきいよ」
いきなり挙げられたのはイケメン人気俳優の名前。
「いや、だからさ、晴大もイケメンも身体の成分は同じで、水とか……えっと、石鹸とか鉛筆でできてるんだよ」
「ああ、脂肪や炭素ね。人間の肉体の構成成分の話。えっ、いきなり何を言い出すの?」
「ほら、だからさ、晴大も顔は違うけどイケメンと原料は同じだから値段は一緒だから元気だせよって話」
「いや、別に僕は自分の顔に悲観してたりしないけど?」
面倒だから放置してるボサ髪をセットして、野暮ったいメガネ外せば結構イケメンだって、知り合いのアパレルショップの店長さんも言ってたよ。
「まあまあ、ほんとはこの名言を聞かせたかったのは後ろのサラリーマンさ」
メリーさんは顔を近づけると小声で言った。親指を立てて指さすのは背後に一人で席に座るサラリーマン。
運ばれてきたハンバーガーのセットを前に無言でスマホをいじる男性。
「うん? 別にあの人も渋めのいい感じじゃない?」
「そうじゃねえよ。これはあれよ、ハンバーガー屋でこの世の真理をついた名言をズバッとつぶやく女子高生ってやつ」
「ああ、Twitterでよくバズるやつね」
これもまた現代に生まれた都市伝説なのだ。
ちらっと見ればそのサラリーマンのスマホには定番のSNSの画面が映っていた。メリーさんもそれを目にして嬉しそうに言う。
「な、さっそくあのサラリーマン、私の名言を拡散しようとしてくれてるぜ」
「よく見なよ。あのサラリーマン、子供向けのワクワクセット食べてるだろ。大人なのにゴメンねって自虐ネタでツイートしてるんだろ。しかもほら、肝心のおまけのおもちゃ(魔女っ子アニメグッズ)はお隣で羨ましそうにしてる女の子にプレゼントしてるよ。
ただ子供向けのセットを買ったっていうんじゃ、あなたのネタツイのせいでおもちゃが手に入らずに泣いてる子がいるんですよみたいなクソリプが付くところを、本来の顧客を喜ばせる助けをしましたってオチで締めて防いでるんだ。
そこまでセットで構成されてるんだ。あれは熟練のツイッタラーだよ。メリーさんの雑なパクツイにとびつくわけないじゃん」
「ぬぐぐ」
「もうちょっとオリジナルのライフハック的なのはないかな? ネットの情報じゃ他の人もつぶやいてるわけだからさ、メリーさんがリアルで得た知識で」
するとメリーさんは「うーん」とうなり、ハンバーガーから垂れそうになったソースに気づいてさっと舐め取ると言った。
「えっと、ケチャップソースが服についたときは、ほうれん草の茹で汁でシミ取りできる。とかどう?」
「メリーさんってちょいちょい昭和生まれ感が滲みでるよね」
「ひぐっ!?」
「あっ、使えるようになった。そんじゃスマホサーチ開始っと」
そこへスマホを探すアプリが使用可能になったと音が知らせてくる。さっそくメリーさんのスマホのサーチを開始する。程なく表示されるスマホの現在位置。
覗き込んだメリーさんが声を上げた。
「おっ、中央公園か。そういやあそこで女の子の風船救出したんだよ。そっか、あん時に落としてたんだな。あれ、でもここ北口になってるよな。私が立ち寄ったのは反対側の南口だぞ」
「いや、これはマズイかもな」
よく見ればスマホの位置表示には10分前に取得されたデータだとなっている。そこから遡って20分前のデータを見ると公園の南口と表示。そして最新データを取得するように更新ボタンを押すと、いま現在の位置は取得できないと表示された。
僕は慌ててメリーさんのスマホに電話を掛け直す。さっきはいつまでも応答はなかったが、今度は電話自体が繋がらない。やがて『相手は電波の届かない場所にいるか電源を切っている可能性があります』と画面に表示される。
「くそっ!」
「
「落としただろう場所から移動してるってことは誰かに拾われたってこと。それで今現在はネット回線も電波も繋がらない状態になってる。多分拾ったやつがこのまま盗もうとしてる」
メリーさんが言うには最後に使ったときはまだ電池は充分にあったという。なら誰かが拾ってくれたタイミングで電池切れで繋がらなくなったわけではないだろう。
恐らくはさっき電話した時に持ち主が探していることを察知して、そいつがスマホに電波が届かないように処理したんだ。
「ええっ!? 私のスマホだぜ!」
都市伝説なんてそこそこダークな世界にいるわりに悪意に疎いメリーさんが驚きの声をあげる。
「行こう、早く捕まえないと」
せっかくの新作バーガーを慌ててかきこむと、僕らは中央公園に走った。
****
「ちくしょう、無かった!」
メリーさんが駆け寄ってくるなり叫んだ。
僕らは手分けして公園を捜索していた。メリーさんは南口の木に引っかかった風船を取り返したという辺りを探しに行って、僕は北口を担当していた。
だが予想していたこととはいえ、南口には落ちてなかったし、拾った人間も探せなかったと。
「やっぱりダメだったか。こっちにも落ちてなかったよ。管理事務所に行ったけどそっちもダメ」
「ふざけんなよ、誰だよ私のスマホ持ってったのは。どうしよう晴太、私のアカウントが乗っ取られちゃう」
「いや、そういうのはもっと組織だった犯罪グループじゃないと無理だよ。メリーさんはパスかけてるんだから。落ちてたのをたまたま見つけて持ち逃げしたような単純な奴には、そこまでの知能はないはずだ。せいぜい中古屋に売るくらいしかできないよ」
「だけどスマホの中の写真とかどうなんだよ! 私のアルバムが消されたりしたら……」
そうなのだ。一応、そいつがネット回線で繋げたときのためにスマホの中のデータを消去する設定はできるけど、そうなるとアルバムのデータも消えてしまう。
メリーさんは本来は怪異という存在だから写真に写りにくい。ただの僕の友達としてなら二人の思い出は形に残すことはできたけど、だからこそメリーさんがそのアルバムを大事に、何度も見返していることを知っている。
僕は心配そうにうなだれているメリーさんに言った。
「ねえ、メリーさん。今日で都市伝説ポイントどれくらい貯まった?」
メリーさんに尋ねたのは、今日稼いだ、人に噂されることで得られる怪異としての存在力、いわゆる都市伝説ポイントの数。
「えっ? なんで?」
「いまこそメリーさんの怪異っぷりを見せるときだからさ」
****
夜更け過ぎ。
とあるアパートの一室。
玄関のドアが開かれて若い男が部屋に入ってきた。
脱ぎ散らかした服やカップ麺の容器やらで足の踏み場もない部屋を、それらゴミを踏みつけ蹴り飛ばしながら進む男。
部屋の主である彼はベッドに身を投げると、上着から財布を取り出して愚痴をはいた。
「ちっ、そこそこ新型だったのに5000円にしかなんねえのかよ」
財布を開けばその五千円札の他は千円札が一、二枚と寂しい限り。
「はああ。しゃあねえ、またコツコツとポケカの買い占めで稼ぐとすっか。ガキに世間の厳しさを教えてやるのも大人の務めだもんな」
男がそううそぶいたとき、胸ポケットに入れたスマホから着信音がした。
画面を覗けば非表示の番号からの着信。
セールスの類だろうと男が無視を決めこんだところでスマホが通話状態になった。
若い女性の声が流れてくる。
「もしもし、私 SIMカード。いま中央公園にいるの」
「はっ!?」
電話はそれだけ告げると切れてしまったが、男はしばらく驚きと困惑に固まっていた。
SIMカード。スマホの横側に収納されている、契約者の識別コードや電話番号が記録された、通話機能を使うのに必須のICカードである。
そして男にとってSIMカードと中央公園という並びには覚えがあった。
日中にぶらついていた公園で落ちていたスマホを拾ったのだ。まだ新型のスマホ。普通であれば交番や公園の管理事務所に届けるべきだが、男は当然のようにそのスマホを持ち逃げした。
ちょうどそのタイミングで持ち主の友人だろう番号からかかってきたから、すぐに電源を落としてSIMカードを抜き取って
これで電話の持ち主にはスマホの位置を特定することも、盗難されたからとスマホを遠隔ロックすることもできないのだ。
そして男はスマホを売り払った。電話としては使えないが情報処理端末としては使えるのだ。あるいは中の個人情報に価値があるかもしれない。
男が持ち込んだ中古屋はユーザー証明書のないスマホでも平気で買い取ったから、そういったグレーな技術があるかその手の者と繋がりがあるのだろう。
男にとってはそんなことはどうでもよく、足元を見られて大した金額が得られなかったことの方が問題だったのだが、
「……まさかバレたのか……。いや、でも買い取り証には適当な電話番号を書いたぞ……つーか、そもそも俺、なんも操作してないのに何で電話繋がったんだよ…………」
そこへ再び着信音。
続いて通話状態に切り替わる音。
「あん!?」
またも若い女性の声が流れる。
「もしもし、私 SIMカード。いま東きさらぎパーク駅にいるの」
男は背筋が凍りついた。その駅は男のアパートの最寄駅であった。
それからも電話は続いた。
勝手に繋がり、自身の居場所を告げる声。
その場所は次第に男の元へと近づいていく。
「もしもし、私 SIMカード。いま七号線通りにいるの」
「もしもし、私 SIMカード。いま南郵便局にいるの」
「もしもし、私 SIMカード。いまあなたのアパートの前にいるの」
ついには声の主は男の住むアパートにまでたどり着いた。
男は「ひっ!?」と悲鳴をあげてスマホを放り出した。
だがゴミに埋もれたスマホは容赦なく数回の着信音を鳴らす。
「もしもし、私 SIMカード。いま『テメエの部屋の前にいんぞオラア!』」
スマホとドアの向こうからの声が重なった。
そしてガンガンガンと音がして、やがてポトリとドアノブが落ちた。
ギィと音を立てて開かれたドア。
だがその向こうには何もない。夜の闇が広がり、ぼんやりとした街頭の灯りが道を 照らすのが見える。
誰もいない。
男がそんな結論に飛びつこうとしたところで、
「はっ!?」
男は尋常ならざる気配を感じ、首だけをゆっくりと回して自身の背後を見た。
そこにいたのは――――紺色のセーラー服を着て血走った目でこちらを睨みつける釘バットを肩にかついだヤンキー少女。そしてその額には絆創膏で貼り付けられた
「よう、いまテメエのバックを取ったぜ」
そしてヤンキーガールは釘バットを振り上げた。
「うわあああああああ!」
****
「よし、アルバムの転送完了っと」
スマホショップの前のベンチに座って、僕は2台のスマホを弄っていた。
一つは昨日メリーさんが落としたスマホで、もう一つは同型機の最新型で最上位機種。
新しい方はメリーさんのスマホを盗んだ犯人に慰謝料として提供されたものなのだ。
僕が犯人のアパートに駆けつけたときには部屋がボコボコにされていて、どちらかというとメリーさんの方が慰謝料払わなきゃいけない事態になってたけど、まあ本人がそうしたいっていうんだからしょうがないよね。
売り払ったというスマホを犯人に回収させ、中のデータが抜かれていないのを確認できたので、メリーさんはその条件で許してやることにしたのだ。
メリーさんという怪異の恐怖を存分に噂するといいよ、って僕が言ったら『絶対言いません。この部屋もいきなり竜巻が発生したと思うんですよ。いやあ世の中には不思議なことってあるもんですね』だって。
いや、メリーさん的には存分に自分の恐怖を噂して欲しかったんだけど。まあ僕としてもメリーさんが久々に戻ったバイオレンス路線に固定されるのもどうかと思うから、それでよかったよ。
昔のメリーさんって包丁振り回す完全に危ない奴だったからね。
そう、メリーさんという都市伝説は
だから僕らはまずは捨てられたであろうSIMカードを探した。メリーさんなら捨てられたSIMカードの悲しみが感知できるのだ。都市伝説ポイントは相当消費することになったけど。
そして公園の出口の花壇で割れたカードを発見したメリーさんは自身をSIMカードの化身として、捨てた相手を辿っていったというわけだ。
さて、僕がメリーさんのスマホの設定を終えたとき、向かいのアパレルショップから声をかけられた。
「晴太くんお待たせー! 見たんさいよ、この輝き。オーダー通りの完璧な仕上がりでしょ!」
声の主はアパレルショップのカリスマ店長さん。そしてその横に縮こまるように震えるメリーさん。
「あ……あわ……ああっ……」
メリーさんの今の姿は。
キラメク金髪はいろんなアクセサリで盛られて、耳には穴なしのフープ型ピアス、まつげと目元がメイクでぱっちりと強調され、白シャツは胸元が開かれて、ラフに羽織られた上着はちょっと袖が長いサイズをあえて。そして白い素足を大胆に晒したミニスカート。
つまりはギャルファッションだ。
「おおっ、店長さん、これは最高の出来ですよ!」
「でしょ。あえて私の若い頃のコーディネートで攻めてみたよ」
今日はメリーさんのスマホの更新に街に出てきているわけだが、もう一つ目的があって、僕はメリーさんをこの店にお任せしていたのだ。メリーさんをイメチェンしてくれって。
「これヤバイって、素足が見えるって! なんだよ晴太、今日は都市伝説ポイント稼ぎに行くっていって何でこの格好!?」
短いスカート裾を必死に伸ばしながら叫ぶメリーさん。
僕はそれを無視してスマホのスケジュールアプリを見ながら告げる。
「今日の予定ですが、これから映画館で『天使爛漫エンジェルパラダイス』の劇場版を見て、次にゲーセンに行きます。お好きなぬいぐるみをプレゼントするよ。それからカラオケで一見関係なさそうに見えて実はアニソン縛りで三時間パック。最後はファミレスで今期の主力アニメ『あろはろ!』のコラボメニューを堪能するというコースになっております」
「何で!? いや、悪くないけど何でそんな偏ってんの!?」
「だって僕オタクだからね。そしてこれからメリーさんはオタクくんに優しいギャルになるんだ」
「ほわっ!?」
オタクくんに優しいギャル。
そう、それは陰キャで地味でヒエラルキー下層にあるオタクとは対極にあるギャルが、その陽性ゆえにか、自身も世間から派手な格好を指さされるという偏見と戦うゆえにか、オタクくんに優しく接してくれるという存在。
これこそが現代に生まれた都市伝説の中で最上位と言えるであろう。皆の夢と願いが詰まった伝説の存在である。
すでに周囲の通行人たちがマナー違反にもこちらを向いて指さしながら、スマホを弄っているけど今日は許そうじゃないか。
「あわあああああ! 見られてる! 見られてるって!」
「それじゃ行くよメリーさん」
このあとめちゃくちゃ
スマホを落としたメリーさん 笠本 @kasamoto
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