最終章 未来に旅立つ

 その日、四葉よつば家の四姉妹、いや、五姉妹の姿は空港にあった。

 すっかり女装姿が板についた育美いくみ

 メディアに引っ張りだこにされた影響か、より美しさを増した希見のぞみ

 育美いくみより『男に見られた』ことがよほど悔しかったのだろう。こっそり、女性らしい振る舞いを練習したおかげで、男前な王子さま系女子のなかにほのかな女らしさを漂わせるようになり、魅力倍増の志信しのぶ

 中学生という年頃のためか、急速に『女として』の成長を遂げ、クール系美少女からクール系美女へと進化しようとしている心愛ここあ

 長女に似たスタイル抜群の遺伝子のおかげで、年相応のピュアで愛らしい笑顔のなかに、もはや小学生とは思えない胸のふくらみを見せつける多幸たゆ

 アイドルグループの遠征。

 そう言っても誰も疑わない美女と美少女の五人組がその場に佇んでいるのだ。とにかく、目立つ。人目を引く。通りすぎる誰もが熱い視線を注いでいく。なかには完全にアイドルグループと思い込み、サインをもらおうかどうしようか相談する人たちもいた。

 そんななか、四葉よつば家の五姉妹は飛行機の時刻をまっていた。ただ、まっているわけではない。未来への展望に胸を躍らせ、頬を上気させながらまっているのだ。

 「今後のためにぜひ、現場を見ていただきたい」

 瀬戸口まどかからそう誘われ、プロジェクトの現場となるアジア・アフリカの貧困地域を視察に行くのだ。

 「いよいよ、四葉よつば工場の名前が世界中に鳴り響くんだな。腕が鳴るぜ」

 志信しのぶが言った。指をポキポキ鳴らしながら、薄笑いを浮かべて。その姿はどう見ても果たし合いに赴く格闘家のそれ。いくら、女らしさを増したと言っても……男前女子はやっぱり、男前女子なのだった。

 その横では姉の希見のぞみが頬に片手をあげて、溜め息をついている。そんな他愛ない仕種ひとつとってもやけにセクシーに、なまめかしく見えるのはやはり、メディアに出て磨かれた結果だろう。

 「本当。まさか、こんな日が来るなんてね。みんな、育美いくみが来てくれたおかげね。育美いくみが来てくれるまではその日をどう乗り切るかで精一杯だったんだから」

 「五つ葉のクローバー。その花言葉は『財運』と『繁栄』」

 「育美いくみちゃんにピッタリね」

 心愛ここあがそう説明すると、多幸たゆがとびきりの笑顔で答えた。

 姉妹たちの言葉に育美いくみはニッコリと微笑んだ。

 「すべて、みんなのおかげだよ。希見のぞみも、志信しのぶも、心愛ここあも、多幸たゆも、見ず知らずの他人に過ぎない私を受け入れてくれた。同じ思いを共有してくれた。だからこそ、いまがある。本当に感謝している。ありがとう」

 育美いくみはそう言って頭をさげた。希見のぞみが、志信しのぶが、心愛ここあが、多幸たゆが、そんな育美いくみを愛おしさのいっぱいにつもった微笑みで見つめている。

 「五つ葉のクローバー。存在する確率は一〇〇万分の一。わたしたちはまさに、そんな確率で起こった奇跡」

 心愛ここあが言うと、希見のぞみも力強くうなずいた。

 「ええ、そのとおりよ。わたしたちは五つ葉のクローバー。これからも、みんなで力を合わせて生きていきましょう」

 「おおっー!」

 と、長女の呼びかけに全員が腕を突きあげ、声をあげた。そのとき、ちょうど、飛行機の時刻を告げるアナウンスが流れた。

 「さあ、行こう。私たちの、世界の人々の未来のために」

 「ええ」

 ――そうとも。本気で思いを語れば共感し、共鳴してくれる人は必ずいる。自分の思いを信じ、貫けば、なんだって実現できる。

 ――人類の歴史は『できるわけがない』と言われたことを、実現してきた歴史なんだからな。

 育美は胸の内にそう呟いた。

 そして、四葉よつば家の五姉妹は旅立った。

 望んだ未来を手にする旅に。


                  完

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追放されたおれが、女になって四姉妹と夢をつかむまで 藍条森也 @1316826612

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