第8話 小石と加藤・元コンビニバイト
小石と加藤
小石だ。拾い上げると、彼の声が聞こえてきた。懐かしさに胸から光が込み上げてきた。
「どうだ、生まれ変わってやったぞ」
男はまだ立ち上がっていなかった。加藤もまだぼうっとしているようだったから、もう一回声をかける。
「おい、その制球力落ちてねえだろうな」
「誰かさんと同じく、野球は辞めちゃったけどね」
僕は右手で小石を握り、後ろに構えて、そして勢いよく振るう。風を切る音はまさに快刀乱麻、ぼくたち小さい悩みも無責任に切り倒してくれる気がして、心強く、快かった。久しぶりの感覚だ。
「うっ」
俺がぶつかると、男がうめいた。予想以上に痛がっていたので、ぶつかったところを怪我でもしていたのかもしれない。そこに、大男が近づいてくる。
「おい」
僕が小石をポケットに一度入れて、蓮さんを抑えると、人相の悪い、背の高い男が声をかけてきた。勇気だ。
「おい、何があった」
「あ、いや、この人がさっき人を襲ってて」
勇気に対しての恐怖と、状況による興奮でうまく喋れなかったが、何とか説明する。勇気はいたって冷静で、警察をすぐに呼んだ。彼が代われと言うので、抑えるのも結局任せてしまった。
元コンビニバイト
空はもうウインナー色に染まっている。あれからしばらくして、勇気に会いたくなった。あの森の近くに行けばいるかもしれない、と考え、行ってみると、本当にいた。
「お前はあの時の」
「こんにちは」
不思議と、緊張はもうなくなっていた。勇気に会いたかった、と言うのは彼に一つ、聞きたい事があったからだ。
「何であの時、ここを通りかかったんですか」
あそこは本当に人通りが少ないので、不自然に思えた。勇気ははじめ、怪訝な顔をしたが、そのあとで苦笑しながら言った。
「死んだ弟がな、やりたがってたんだよ『この街花園化計画!』とか言ってな」
「え、勇気さんの苗字って」
「小西だが」
勇気に言われた通りの道順で進むと、単調な木々とかけ離れた、カラフルな花々が咲いているところがあった。中央に咲く雑草を中心に、色がグラデーションになるように植えられていて、美しかった。中央の雑草の中に小さくて可愛らしい白い花を見つけた。
確かその雑草、いや花の名前はスズメウリと言ったはずだ。ぼくは気になって、スマートフォンでその花言葉を調べる。その意味を知ると僕はくすりと笑って、地面に寝転がった。確かに、あんなことばっかり言って、いたずら好きな小石くんにはぴったりだ。ポケットからあの小石を取り出す。くれていく太陽に
胸の奥底が満たされる。誰もいない森で、僕は長いため息を吐いた。
石暮れ 宇宙(非公式) @utyu-hikoushiki
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