第7話 コンビニバイト

 コンビニバイト

 

 今日はシフトも入っておらず、大学も講義がなかったため、一日中暇だった。だらだらと過ごしていると、もう夜になっていた。夏で蒸し暑かったため、アイスが無性に無償で食べたくなり、キッチンに行く。冷蔵庫を開くと、冷たい膜が顔に張られた。しかし、あいにくアイスはなかった。仕方なく、近くのコンビニでアイスを有償で買い、優勝することにする。

 

 せっかく暇だから、加藤は少し遠回りしよう、と丁字路を左に曲がった。しばらく歩いた先で、悲鳴のようなものが加藤の耳を切り裂いた。人通りの少ない、森に面したところだ。

 怖いもの見たさで、声のした方を恐る恐る見に行く。そこには、二人いた。刃物を持って暴れる男と、助けを求めながら逃げようとする女だ。「誰か、助けて」「刺される」そう叫ぶ声がしきりに聞こえた。「連続殺人」とも言っているようだ。胸の中で、誰かが壁を殴りつけるような音が聞こえた。

 暗くてよく分からなかったため、加藤は近くに寄ろうと、静かに歩みを進みた。足下に注意が向かなかったのだろう。加藤は木の枝を踏んで折ってしまい、夜に響く大きな音を鳴らした。

 男が逃げようとするので、加藤は急いで追いかける。コンクリートの舗装された道に男が出た。「クッソ」そう叫ぶ声には聞き覚えがある。蓮さんだ。頭の中でいくつもの声が重なる。

「小石、交通事故で」

「蓮さん、運転が下手なうえに荒い」

『勇気ってやつがやったんだ』

「何かあったらこの結城蓮」

 全てが繋がっていく。あの時の車の、運転手は蓮さんで、ゆうきと呼ばれていたのは、蓮さんの苗字、結城だった。そして、今の事件の犯人も、蓮さんだ。

 途端に目の前の見慣れた背中が憎くなる。蓮さんの方が足は速く、加藤と蓮さんの差は開いていく。

 しかし、前を走る男は「こっ」という音とともに転んだ。転倒の原因である、何かが加藤の足下に転がってきた。

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