第11話 初めての部活動

「「よろしくお願いします!」」

「おう、よろしく」

あれから2日後、入部届を出した僕と葵は晴れて能力研究部の正式な部員になった。

この部の部長である紗夜先輩も笑顔で歓迎してくれているが、その童顔は何度見ても先輩には見えず、小柄な体格も相まって側から見れば紗夜先輩の方が後輩に見えることだろう。

「そういえば、私たち以外は誰も入部してないんですね」

「まだできたばかりでこの部活の存在すら知らない奴の方が多いからな、それにこんなに人気のない所にあるんだ、見学さえ誰も来ねぇよ」

葵の素朴な疑問に対して紗夜先輩は苦笑いしながらそう答えた。

葵の言った通り、この教室には僕と葵と紗夜先輩の3人しかいない。部活というにはいささか人数が少なく、同好会と言われてもおかしくないレベルだった。

「でも、そんな影の薄い部活でも物好きな一年が2人も入部してくれたおかげで少しは見栄えが良くなったがな」

そんな部活中というには少し寂しいこの部室を見て紗夜先輩は笑みを浮かべた。その笑みはさっきの苦笑とは違い、嬉しそうに見えた。

「ところで、今日は何をするんですか?僕、楽しみで夜しか眠れませんでした!」

「そうなのか・・・ぐっすり眠れたようでよかったな」

そう言う紗夜先輩は引きつった笑みを浮かべていた。苦笑したり、嬉しそうに笑ったり、引きつった笑みを浮かべたり、この短時間に笑い方がこんなに変わるなんて笑顔の忙しい人である。

隣の葵は呆れてため息を吐いていて、やれやれと言う幻聴が今にも聞こえてきそうだった。

「無理に付き合わなくていいですよ先輩。啓斗も、冗談はほどほどにしなさいよ」

「うう、これぐらいいいだろ別に」

「あなたがよくても先輩にとっては違うかもしれないでしょ」

全くもってその通りだ。正論すぎて何も言い返せない。

「まあまあその辺にしてやれ、別に私は迷惑だなんて思ってないからさ。むしろ、これぐらい軽いノリの方が個人的には好みなぐらいだ」

「本当ですか?」

「ああ。だからお前もそんなにかしこまらずに、自然体でいいんだぞ龍神たつがみ

「・・・そう、ですか。ではそうさせていただきます。今すぐにとは、いかないかもしれませんけど」

そう言い、とりあえず葵は納得してくれた。長い付き合いだからこそ分かるが、さっきまでの葵は体に力が入っていたように見えた。それが今この瞬間に少し和らいだのは、先輩の言葉に嘘や誇張がなかったからだろう。

「じゃあ、脱線しすぎた話を元に戻すぞ。今日の部活だが、まずはお前らの実力を知るために一対一で私と勝負してもらう」

「一対一で、先輩と勝負」

初めて紗夜先輩と会った時の自己紹介で、紗夜先輩は自分はAクラスだと言っていた。

Sクラスを除けばこの学園で最も高い評価であるAクラスの生徒となればその実力は折り紙つきなわけで、Fクラスの僕からしてみれば雲の上の存在だ。

ちなみにAクラスを雲の上とするならSクラスはそのさらに向こう、遥か彼方の宇宙空間ほどの差があるだろう。

「あの、僕Fクラスなんですけど、何かハンデとかもしくは手加減していただけたり・・・」

「逆に私は、手加減やハンデをつけた方がいいですか?」

相羅あいら、だったか?私がお前のレベルに合わせてやるからお前は好きなように戦ってくれ。次に龍神、お前は能力を使った遠距離攻撃禁止で頼む、お前が戦ってる映像は何度か見たことあるが、流石にあんな理不尽な弾幕避けられないからよ」

そうして、紗夜先輩は模擬戦のハンデや手加減の内容を決めた。

しかし、葵のハンデが遠距離攻撃禁止というのはあまりにも葵を舐めすぎではないだろうか。確かに、葵の強みは理不尽な遠距離攻撃だが、だからと言って近距離戦ができないわけではない。

事実、数日前には何十人もの生徒相手に得意の遠距離攻撃なしでも完封していたほどだ。

しかし、葵も先輩もそのハンデで納得しているため、僕がとやかく言うことはできなかった。

「じゃあ、行くとするか」

「行くって、どこに?」

「そりゃお前、この学園が最高峰と言われる所以にもなってるところだよ。ついてこい」

自慢げにそう言って、先輩は僕らをその場所に案内し始めた。

行ったことはないが、先輩のその口ぶりからどこに向かっているのかはすぐにわかった。

この学園が最高峰と言われているのは、教育のレベルが高いのもそうだがその施設があることが大きい。

そのため、先輩がどこに行こうとしてるのか、この学園の学生でなくてもすぐにわかったことだろう。

「着いたぞ、ここがこの学園を最高峰たらしめている場所、仮想戦闘室だ」

紗夜先輩はそう言いながら扉を開いた。

部屋の中には人1人がすっぽり入るほどの大きな卵のような形の機械が大量に並べられていて、中々壮観な光景だった。

しかし利用者自体は少なく、てっきり全部埋まってるんじゃないかと思っていた僕はその利用者の少なさを疑問に思った。

「なんでこんなに人が少ないんですか?最高峰の象徴と言われてる施設にしては空きが多いような・・・」

その疑問の答えを求めて僕は素直に先輩に聞いてみた。しかし

「逆に聞くがどうしてこんなに少ないと思う」

「え?」

先輩から返ってきた言葉は予想外のもので、僕の疑問に対する答えは返ってこなかった。

「どうしてって、それがわからないから聞いてるんですけど」

「その言葉、ちゃんと考えてから言うんだな。お前、大して考えずに私に聞いただろ」

「うぐっ」

ジト目でそんなことを言う先輩に僕はバツの悪い顔をした。

実際、先輩の言う通り何も考えずに聞いたため僕は何も言い返せなかった。

「まずはじっくり考えることだな、そうしたら答えは分かるはずだ。それでもわからなかったらもう一度私に聞いてくれ」

「わかりました。その時は素直に聞くことにします」

そうして、僕の疑問は解消されないまま先輩との問答は終わった。

「じゃあ模擬戦闘始めるか。まずはこの機械『げん』の操作方法を教えるから耳の穴かっぽじって聞けよ」

そう言って先輩は『幻』の操作方法を僕らに説明した。

『幻』の操作方法は案外簡単で、先輩の説明がわかりやすかったのもあり、すんなりと覚えられた。

「・・・ここまでの説明でわからなかったとこはないか?」

「大丈夫です」

「僕も、理解できました」

「ならまずは相羅お前からだ、準備しろ」

そうしてひとしきり説明を終えた先輩はすぐさま模擬戦の準備を始めた。

それを見て僕もすぐに準備に取り掛かり、『幻』の中にある椅子に座った。

『幻』の中は僕の思い描いていた『近未来的な機械』像とはかなり違って質素な作りになっており、少し物足りなさを感じつつも先輩との模擬戦に僕は心を躍らせていた。

(そういやここからどうやって先輩と戦うんだ?漫画やアニメのように、いきなり森に飛ばされたりするのかな)

と僕がそんなことを思った瞬間、視界がだんだんと暗くなって目の前が真っ暗になり、次に目を開けた時には、全く知らない闘技場のような場所に立っていた。

それはまさに僕が想像していた移動と全く一緒で、アニメや漫画のキャラはこんな風に感じていたんだなと少し感動した。

前に目を向けるとさっきぶりの紗夜先輩が立っていて、得意げにしながらこの状況に困惑している僕に声を掛けた。

「初めてだから癖のないシンプルなステージを選んでおいたんだが、どうだ?」

「どうだと言われても、・・・こんなに広い闘技場に観客の1人もいないのは寂しくないですか」

「ハハハッ、確かにそうだな!だが今は観客のいるステージなんてないからこれで勘弁してくれ」

そんな僕の冗談を先輩は軽くあしらった。

「じゃあ冗談はここまでにして模擬戦始めるとしようか。部室でも言ったが私が合わせてやるからお前は好きなように攻撃しろ。ないとは思うが遠慮はするなよ」

「元からするつもりはないので安心してください!」

その言葉を火蓋に、僕と先輩との模擬戦が始まった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

獣の王 毛糸玉 @keitmdama02

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画