第10話 能力研究部
「落ち着きましたか先輩?」
「ああ、取り乱して悪かった」
あの後、僕と葵はなんとか先輩(?)を落ち着かせることができた。
今は四つの机を合わせて、それぞれが椅子に座っている状態だ。僕と葵が隣同士のため先輩が正面に座っていることになる。
そして、その正面にいる先輩は申し訳なさそうな、恥ずかしがっているような顔をしている。取り乱したことが相当恥ずかしかったのだろう。
それを見た僕の頭に『かわいそうは、かわいい』という言葉が思わず浮かんできて、前まで意味がわからなかったこの言葉も今なら少し共感できてしまった。
「この教室に来たってことは勧誘のポスターを見てきたのか?」
そんな少し変態チックなことを僕が考えている間に立ち直ったのか、先輩は笑顔でそう言ってきた。
その行動に驚きつつも、先輩なりに頑張ろうとしているのを感じとった僕は無粋なことは言わないことにした。
「はい、僕は1年Fクラスの相羅啓斗です。こっちは…」
「1年 Sクラスの龍神葵です」
「知ってるさ、数少ないSクラスの生徒だからな、噂なんてそこら中から聞こえてくる。この国トップの実力者なら尚更な。私は2年Aクラスの
そう言い、紗夜先輩は自嘲気味に笑った。
それぞれ自己紹介をしたところで、失礼だが僕はこんな小柄なのに先輩なんだなと思ってしまった、しかし、それが紗夜先輩の琴線に触れてしまうような予感がした僕は声に出すようなことはせず心の内に仕舞い込んだ。
「さっそくですがここではどのような活動を行なっているのですか」
僕がそんなことを考えてると葵が本題に入った。能力研究部の活動内容が気になっていた僕としても、それは一番聞きたいことだった。
その葵の質問に、紗夜先輩は快く答えてくれた。
「そうだな、簡単に言うと能力を研究して特訓することだ、と言ってもそれなら他の部活とやってることは変わらない」
「そうですね、今まで見てきた部活も主な活動内容は能力の特訓でした」
「だからこそ、この部活だけの強みがあるんだが・・・お前らは私を見た時、何か思ったことはあるか?」
その問いに対し、僕の中に一番最初に浮かんできたのは『かわいい』という言葉だった。
しかし、それが正解な訳がないため、僕は紗夜先輩のもう一つの大きな特徴を口にした。
「「能力・・・」」
どうやら葵も同じ結論に至ったらしく、葵の答えと僕の答えとが重なった。
「正解だ。まあ、これだけあからさまだったら誰でもわかるだろうけどな」
そう言って先輩は自分の耳をピクピクと動かした。
この部室に入ってから一度も能力を解いていない証である、その大きな耳を。
それを見て僕はずっと気になっていたことを尋ねた。
「あの、今までスルーしてましたけど、どうやったら寝ながら能力を発動できるんですか?本来、能力は意識しないと使えないものだと思うんですけど、それを無意識下で行うなんて・・・」
それは先輩の第一印象が原因で霞んでしまった、本当なら霞むはずのない離れ技に対する当然の疑問だった。
「お前の言いたいことは分かる。それも含めて、今からこの部の強みを説明してやる」
そう言われ、ついに明かされる能力研究部の詳しい活動内容に、僕は固唾を飲んで見守った。
「まず、さっきも言ったようにこの部の活動内容は能力の研究と特訓だ。そして他の部と決定的に違うところは一つ」
そこで左手の人差し指を立てた先輩は、一拍の間を開けて続けた
「それはこの部活がマナに焦点を当ててるとこだ。私がずっと能力を発動させてるのも能力発動時のマナの燃費を良くするため、と言ってもマナの消費を抑えてる分、今の状態じゃそこまで力は強くないがな」
確かにそれなら先輩がずっと能力を発動させているのにも納得できるし、今先輩が話したこの部の強みというのにも合っている。
しかし、僕にはまだ気になることが残っていた。
「じゃあ、どうやったら寝たまま能力を発動できるんですか?そんなことができる人なんて聞いたことありませんよ」
それはさっきからずっと聞いている疑問であり、未だ答えのもらえていないものだった。
全能力者の中で1人しかできないかもしれないほどの技なのだから、さぞ習得に苦労したのだろう。
「確かに私も自分以外にできるやつは知らないが・・・常に能力を発動しておく癖がついたら誰でもできると思うぞ」
「・・・え?」
しかし、貰えた答えは予想していたものとは大きく異なっていた。
「そりゃそうだろ、わざわざ寝ながら戦おうとする奴なんていると思うか?」
その問いはバカでも分かる簡単な問いだった。
「確かに、いませんね」
「それに、こんなことするぐらいなら自分の技磨いたりなんなりしたほうが強くなれるからな」
「じゃあ、なんで先輩はずっと能力を発動してるんですか?」
その方が強くなれるというのがわかっていたら、わざわざそんなことをする必要はない。
それがわかっていてやっているのならそれなりの理由があるはずだった。
「それはさっきも言ったように燃費を良くするためだ。もともと私はマナの総量が少なかったから、こうでもしないと他の能力者と同じ土台にすら立てなかったんだ。」
「な、なるほど」
だとしたら、先輩はマナの総量が少ないというハンデがあるにもかかわらず、Aクラスまで上り詰めたことになる。
才能がないとAクラスになるのは難しいと言われている中、努力だけでその座を掴んだ先輩は紛れもなく『努力の天才』だった。
「っと、そろそろ時間だな」
「え、時間?」
そう言われて時計を見てみると最終下校時刻の10分前になっていた。
「もうこんな時間・・・」
「残念だがここまでだ、暗くなる前にさっさと帰るんだな」
「はい、ではさよなら」
「今日はお世話になりました」
そう言い、僕と葵は席を立ち部室を後にした。
西に沈んでいく太陽を尻目に僕らは学園を後にした。
「で、入りたい部活は見つかった?」
それは、校門を出たあたりで葵が僕にした質問だった。
「もちろん!僕が入る部活は…」
そうして僕は、これから自分の青春の1ページに刻まれるであろう部活の名前を口にした。
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