ボロチュウ

豆腐数

このボロチュウ君が、姫ちゃんのリボンみたいに動いたら著作権侵害だなとか言ってた。学校の授業の影響で。

 人間、数十年も生きれば薄っぺらい人生でも黒歴史だけは積み重なっていくもんで。「修学旅行、バスの中、トイレ死ぬほど行きたい、ここ、長い長い高速道路中間地点」とか、思い出したくもない事はカビのように増えていくものです。まあそんなわけで私はカクヨムのヨムマラソンでも最高ランク懸賞の旅行は当たる可能性もいらんわけですが、ともかく。せっかくのコンテストだし、枯れ木も山の賑わいと、喋れるような事だけ喋ろうかなと思います。


 ピカチュウいるじゃないですか。ポケモン知らない人も、ピカチュウの名前くらいは聞いたことあるかと思うんですが、そうあの黄色いネズミです。アニメの主人公が交代してもなお別個体がメインを張り続けるくらいの、何かあれば真っ先にグッズ化するくらいのポケモンの看板です。ピカチュウ単体のゲームなんかもありましたね。もちろんハマりました。当時ネットの攻略情報もなく攻略本も発売されておらず、エンディングに行けない子多数だったゲームを自力でエンディング見れた程度にはハマりました。


 アレのね、手のひらに乗っかるくらいの小さなピカチュウのぬいぐるみをね、小学校低学年くらいまで妙に愛着もっていつも持ち歩いてたんですよ。流石に小学校にはもっていかなかったんですけど。いや一回、ランドセルに突っ込んで連れて行ったな。怒られるから外には出しませんでしたけど。まあ家の中とかお出かけとかにはいつも連れ歩いてましたね。


 まあそのぬいぐるみがね、ずっと抱っこしてたからすげー汚いしボロッボロだったんですよ。たまに洗ったりはしてたけど、それでどうにもならんくらい。シッポなんかちぎれかけ、目の白目はとっくに消えて、ぬいぐるみの表面も中の白い網目みたいなのが見えてるってくらい。


 傍から見たらそんなもん連れ歩いてるの軽いホラーだったろうし、親も今思うとボロいと言ってた気がするんですが、なんかソイツを気に入ってずっと持ち歩いてたんですね。家族の前で即興アテレコとかして喋らせてたりもしたから、ますます愛着がわいちゃったのかな。んなもん取り上げて捨てずにそっとしておいてくれた親もおおらかだなあって思うんですけどね。

 

 他にもピカチュウのぬいぐるみ持ってたのに、そいつだけが妙に特別だった。他のピカチュウだとなんとなくしっくり来ない。


 長年可愛くない子どもの手に抱かれ、物言わず健気に耐えてたボロボロのピカチュウ、略してボロチュウ君。そんな彼にも限界が来ました。ある日おばあちゃんちに行く途中の車の中、ボロチュウ君を取り出していつものように即興アテレコをしようとしたら、ボロチュウ君の片目が欠けてたんですね。


 往生際悪く接着剤でくっつけたりしたんですが、そこでやっと目が覚めたのか。だんだんぬいぐるみを持ち歩くことはなくなりましたね。


 そのボロチュウ君をどうしてそんなに大事にしてたのか、逸話があれば格好がつくんですが。実話なんで特になんもないんですよ。転校した友達からもらったとか、亡くなった家族からもらったとかあればいいんですが、なんで持ってたかも覚えてないようなシロモノ。


 「安心毛布」っていう、幼児が何かに執着して安心を得るっていう意味の言葉がありますよね。ピーナッツ、スヌーピーのライナスにちなんだ「ライナスの毛布」って言い方のが有名かな?


 アレって場合によっては毛布がボロッボロの切れ端になっても手放せないほど執着してしまうらしいのですが、私のライナスの毛布ってボロチュウ君だったのかなって。確か小学校3年生くらいまでんな事やってたのは、かなり子どもっぽくて普通に恥ずかしいやつなんですが、多分私にとってのサトシのピカチュウやマイピカチュウに当たるのは、あのボロチュウ君だったんでしょうね。


 そのせいなのか、今もライナスが毛布を手放すような話には涙腺がとても弱いです。同時期に姫ちゃんのリボンにハマったのも、ヒロインの相棒が赤ん坊の頃から大事にしていたぬいぐるみだったこと、そんなライナスの毛布を手放す物語だったからでしょう。しかし数年ボロチュウ連れてた側から見ると、あのぬいぐるみのポコ太君、十年以上持ったの丈夫だよな。そりゃ魔法の一押しがあれば動きもするさ。今考えると補助輪付きのつくも神みたいなもんだな。

 

 そんな名作先人が作り上げた物語の型のお陰で「ニキビ面ムッツリデブスのガキが、ボロッボロのピカチュウのぬいぐるみを常に持ち歩き、背後からアテレコまでしていたホラー」がなんとなく感動的に仕上がったところで、この話はおしまいです。


 いや、こんな光景美少年や美少女だったとしてもホラーだわ、うん。

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ボロチュウ 豆腐数 @karaagetori

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