夜春(2)

 芙雪の誘拐事件発生から二ヶ月と十日が経った頃、警察に通報があった。切羽詰まった様子で話す女性は次のようなことを話していた。


 自分たちは監禁されている。自分の他にも一人の少女がいる。少女の名前は芙雪。場所は山の中に切り開かれた家である。


 女性が必死に情報を伝えていた途中で、通話が途絶えてしまった。緊急性を要する事案に、警察は大規模な人員を動員して捜索を開始した。捜索四日目にしてそれらしき家屋が発見された。フェンスに覆われていて中を確認することは出来ないが、女性が話していた情報とその家屋は一致している。

 なかなか男が出てくる様子は見られず、緊張状態が続く中、ついにフェンスの中で動きがあった。男が車で外出しようとしているのだ。男がフェンスを開け、車を出そうとした瞬間、警察が中へなだれ込み男が抵抗しないように確保した。

 別働隊が家の中や敷地内を探索する中で、腐乱死体が発見された。中には形を留めていないものもあり、数を識別できる状態ではなかった。死体の山の頂上には比較的きれいな状態の二十代後半の女性の死体が放置されていた。

 家の中を探索していた警察は一人の少女を発見した。警官の一人が少女を保護し、彼女に名前を聞いた。


「自分の名前言える?」

「……私は、夜春です」


 少女はためらいがちにそう答えた。庭に植えられた桜の蕾は一つ二つと花開き始めている。

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芙雪明けの夜春 ぷろけー @project-k-prok

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