めがねえ
志波 煌汰
幼馴染とめがねに関する一幕
朝投稿すると、幼馴染がめがねをかけていなかった。
「うお、どうしたお前。イメチェンか?」
急なことで少しびっくりするアタシ。こいつはいつも瓶底のめがねをかけた、いかにもなガリ勉スタイルだったのだが。
十数年見慣れたものが急に変わると、なかなか戸惑う。
「チッチッチ」
幼馴染は指を振る。素の顔が悪くないから意外と様になっていてなんかむかつくな……。
「イメチェンなんかではない」
「あ、そうなのか……」
確かにめがねをかけていないからってイメチェンと決めつけるのは早計だった。そんな色眼鏡で見られると気分良くないよな、めがねだけに。
幼馴染は何故か微妙に気取った声で続ける。
「ド級のイメチェン、ドメチェンだ」
「じゃあイメチェンじゃねえか」
なんだドメチェンって。ゴロが悪すぎだろ。
ドメインチェンジかと思うわ。
「まあ聞け、まあ聞け」
「二回も言わなくても聞いてやるって」
「まあ聞け」
「聞いてやるって言ってんだろ、耳まで遠くなったかオメー」
「昨晩のことだ」
アタシのツッコミを全く意に介さず話を続けやがる。
「妹に勉強を教えていたんだけどな」
「ああ妹ちゃん。お前と違って勉強は出来ないけど社交的で友達が多くてモテモテの、お前とは大違いな妹ちゃん」
「なんで違いを二回も強調した?」
顔の良さは似てるけどな、と言う言葉は思うだけに留めて飲み込む。絶対言ってやらない。
「ともあれ俺が懇切丁寧に勉強を教えてやってると、妹が言ったのだ。『お兄、知ってる?
頭の良い男って嫌味に感じられて好かれないんだよ』」
「お前が嫌味言われてるじゃねーか」
どんな教え方してたんだよ。
「その言葉に俺は衝撃を受けた。そうか、俺が好かれないのは頭が良いからなのか。俺が、あまりに天才なのが良くなかったのか」
「絶対それだけじゃねえと思うわ」
「だが頭を悪くすることは出来ない。脳を少し削ることも考えたが、流石に現実的ではないからな」
「お前……そんなにモテたかったのか……」
なんだか哀れな目で見てしまう。
「そこで俺は一計を案じた」
「……まさか」
「『めがねかけてると頭良く見えるってことは、外せば頭悪そうに見えるんじゃないか?』……とな」
「全国の非めがねの人に謝れ」
本当に頭悪くなってないかこいつ。
「ともあれ、経緯は分かったよ。それでコンタクトにしてきたってわけだな」
「うん? いや?」
いや?
「昨晩急に思い立ったから、コンタクトレンズを用意する時間はなかった。裸眼だ」
「本当に馬鹿じゃねえの!? お前めがねなしじゃなんも見えないだろ!?」
「うん、正直お前の顔も分からん。どうしよう」
「どうしようじゃねーよ!」
呆れを通り越していっそ感心する。
「そこまでしてモテたかったのかよ」
「いや別にモテたくはないな」
「なんなんだ」
「実は好きな女が居てな」
えっ。
初耳過ぎる。マジで?
アタシの動揺に構わず、ヤツは続ける。
「以前は『頭良さそうな人が好き。めがねとかいい』と言っていたので勉強に打ち込んでめがねをかけるほどになったんだが……いまいち効果が出ているように見えないからな。アプローチを変えてみようかと」
「そ、そうか」
そんな経緯があったのか。
あれ? でもこいつがめがねかけてるのってかなり昔からだよな?
それにさっきの言葉、どっかで聞いたような……。
聞いたって言うか、むしろ言ったと言うか……。
「で、どうだ?」
ヤツがアタシに顔を近づけて聞いてくる。
咄嗟に顔を逸らした。
「顔が近え!」
「む、すまん」
「なんでアタシに聞くんだよ!!」
「それはもちろん——」
続く言葉を聞いて、アタシはこいつがめがね外してきてて良かったと心底から思った。
だってこんなに真っ赤になった顔、見られたくはない。
(了)
めがねえ 志波 煌汰 @siva_quarter
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