「それだね!」

土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり)

「打ち間違えた!」

 予備校の夏期セミナー中に小学生6年生の弟からLINEが来た。(以下LINE上のやり取り)


「姉ちゃん、姉ちゃん!」


「なに?」


「夏休みの宿題助けて!」


「自分でやれ」


「読書感想文と自由研究がまだ」


「知らない」


「姉ちゃん歴女だろ?」


「それがどうした?」


「歴史の本を貸して」


「なんで?」


「一冊で読書感想文と自由研究ができる。オレ天才」


「はいはい」


「だから貸して」


「イヤ!」


「ケチ」


「図書館に行け」


「暑い。だるい」


「知らん」


「姉ちゃん、お願い」


「ダメ」


「母さんにバラすぞ!」


「なにを?」


「カバーだけ参考書で中身はマンガばっか」


「勝手に見たな!」


「見た。母ちゃん怒るぞ」


 やばい。アレを見られるとは。


「話せばわかる」


「母ちゃんに言ってやろ」


「おちつけ」


「じゃあ、歴史の本貸して」


「わかった。母さんに


「了解。歴史の本はどこ?」


「押入れのダンボール


「四つもある」


「どれ?」


「全部出せ」


「上にしばった紙の束がのってる」


「それはのお誘いとかのチラシ。資源ゴミ」


「わかった。歴史の本は何の箱?」


「黄色い箱」


「どれ?」


「黄色もわからんのか。おエローの箱」


「www おエローってなんだよwww」


「うるさい。打ち間違えた。イエローの箱」


「黄色の箱が二つある。あとはオレンジと白の箱が一つずつ」


「え?」


 おかしい。黄色い箱は一つだけでオレンジの箱が二つのはずだ。


「写真送って」


「了解」


 しばらくして二つ並んだ黄色いダンボール箱の写真が送られてきた。一つは真新しくて見覚えがない。もう一つはちょっと古くて見覚えがある。


「姉ちゃん、古い箱には血の跡みたいのついててキモい」


「指のを引っかけて血が出たときの跡。新しい箱には見覚えない」


 前に読んだ歴史の本はたしかに黄色い箱に入れたはず。他に何を入れたっけ。


「じゃあ血のついたコッチを開ける」


 思い出した! 昔、描いた黒歴史のBLマンガだ! キャラの名前に勝手に弟の名前を使ったんだった。止めないと!


「それだね!」


 しまった! 打ち間違えた! 痛恨の入力ミス! 「それだめ!」のつもりがになって「それだね!」になってしまった。


「了解」


「待て、開けるな!」


 あああああああ。既読スルーだ。弟は箱を開けているに違いない。もうダメだ。






「姉ちゃん変態」


 遅かった。ついでに予備校の小テストもあとなのだが、こちらも手遅れであろう。南無。




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「それだね!」 土岐三郎頼芸(ときさぶろうよりのり) @TokiYorinori

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