第21話 温泉ダンジョン 其の5
それからも度々モンスターに襲われては討伐を繰り返して進む探索者一行。
俺は祭理の後ろから配信用のカメラを構えていた。
「さっきのおねぇちゃん凄かったね〜。一瞬でドラゴン氷漬けにしちゃってさ。あんなことできるんだね〜」
〈最強すぎる!〉
〈え?知らなかったの?〉
〈もう姐御なら何して驚かないよ〉
配信にはすでにそれなりの視聴者数が集まっていた。
〈羽生柚花:さすがアイリスさん!〉
〈柚花ちゃんいるやん!〉
〈柚ぽんもようみとる」
「わーい!柚さんこんにちはー!本当は一緒に来れたら良かったんだけどね。ハネマンちゃんは大丈夫ですか?」
実は今回、柚花も誘っていたのだが、みちるが風邪をひいたとかで寝込んでしまったらしい。
〈羽生田みちる:ハネマンゆーな!〉
どうやらみちるも見ていたらしい。
「あはっ!聞いてたかぁ。でもなんか大丈夫そうだね。よかったよかった」
リスナーと絡む祭理を見ていると、ずいぶん配信慣れしたもんだと思う。
そんな祭理がなぜ引き篭もりになったのか。なんとなく聞かないでいるが、まさか学校でいじめられたとかじゃないだろうな?だとしたら
学校に殴り込んでいじめっ子達に一生癒えぬトラウマを植え付けてやるのもやぶさかではない。
まぁ、考えても仕方ない。祭理はこう見えて聡明な子だ。行動力もある。きっと本人なりに考えがあるのだろう。
暫くすると、前線の方が騒がしくなった。
様子を確認すると、どうやら目的地にたどり着いたらしい。
「海だーーーーー!!!!」
駆け出す祭理を追いかけて行くと、大きな扉が開いていた。その先に入ると、目の前からむわっとした熱気が立ち上った。
湯気の奥に広がる温泉を見つけ、探索者達は皆一様に盛り上がっている。
「見ておねぇちゃん!海だよ海!」
『温泉な』と紙に書いてみせる。
「半径10メートル以上の温泉を人は海と呼ぶんだよ!」
呼ばねぇよ……。
無茶苦茶な事を言う祭理に、コメント欄の反応はと言うと、
〈海だーーーー!!!!!〉
〈海だーーーーーー!!!!!!!〉
〈うおおお海ィ!!!!〉
〈U☆MI☆DA!〉
…………。
さすがは祭理のリスナーである。
周囲にモンスターの気配は無い。みんなが早速装備を下ろし、お待ちかねの温泉タイムに入ろうとしていた。
えっ?えっ?みんなどうやって着替えるの?てか混浴?全裸混浴?やばくね?貞操観念ゼロじゃね?日本終わってね?
俺の動揺をよそに、男女共に躊躇う事なく服を脱ぎ捨てて行く。
「さーて。あたしもっと」
あろうことか祭理も堂々と脱ぎ始めた。
おいおいおいおいっ。
まさかこの湯気に特殊な効果が含まれているのでは?
俺は放送事故を回避すべく咄嗟ににカメラを下に向け、祭理に駆け寄った。脱衣させまいと手を掴むと、祭理がびっくりしたように目を見開いた。
「えなにっ? どうしたの?」
俺は誰にも聞こえないように、祭理の耳元で囁く。
「みんな見てる前で裸になるつもりかっ」
祭理は一瞬ぽかんとした顔をしたが、すぐにぷっと吹き出すと、何が可笑しいのかケラケラと笑い出した。
「あはははははっ。おねぇちゃん何勘違いしてるの?こんなとこで裸になるわけないじゃん!」
「へっ?」
戸惑う俺をよそに脱衣を再開する祭理。
その服の内側から、下着が顕にな……あ、そゆこと。
祭理が服の下に着込んでいたのは、腰と胸に大きめのフリルがついた薄黄色の水着だった。
他の人達も、同じように既に水着を着込んでいたらしい。
俺は静かに胸を撫で下ろすのだった。
〈姐御ェ……〉
〈普通に考えれば分かるよね?〉
〈祭理ちゃんの水着姿かわいー!〉
〈姐御は温泉入らないの?〉
カメラを上げると、様々なコメントが飛び交っていた。
「おねぇちゃんはうっかりさんなので、水着を着てくるのを忘れてしまったようです。なので残念!またのお楽しみだね」
流石に水着なんかなったら誤魔化しが効かない。
祭理は温泉に入ると、そのまま胸元までつかり、気持ちよさそうに息を吐いた。
他の人達もいたる所でくつろいでいる。中には無駄にパラソルとテーブルを設えて夏のビーチ感出してるアホもいる。
あとお互いの筋肉自慢しあってる野郎共。ほんと、男ってバカね。
それにしても大きな温泉だ。一体どこから沸いてるんだか、ダンジョンの神秘である。
少し、入れないのが勿体無く感じた。
今度また女装してない時にでも来てみるとするか。
俺はせっかくなので、あちこちにいる水着姿の女の子たちを観察し、ベストバストの選定を始めた。
近くの男達からもちらほら邪な声が聞こえてくる。
「おっ、あの娘おっぱいデカくね?」
「あの娘もなかなか……」
「お前声かけてこいよ」
「やだよお前行けよ〜」
──バカ共が。デカさを競うだけがおっぱいじゃないぜ?大事なのはバランスだ。
形、張り、大きさに加え、身体全体の比率さえ審査項目に含まれる。
まぁ、尻派の俺から言わせればおっぱいなどおまけにすぎぬのだがな。
「──おねぇちゃん?」
おっと。審査に夢中になって目の前のシンデレラバストちゃんの事を忘れてたぜ。
祭理に向き直ると、急に水飛沫が顔にかかり思わずのけぞってしまう。
いきなりなにすんだよ!と心の中で文句を言う俺に、祭理は拗ねたようなジト目を向け言った。
「今すごい失礼な事考えてそうだったから」
図星である。
まったく……鋭い妹を持つと大変だ。
それから暫くの間温泉を堪能し、そろそろ帰ろうという流れになった。
カメラの画面を見ると配信の方も盛況で、わざわざ来た甲斐があったと達成感のようなものを感じる。
B級ダンジョンでの清水アイリスの活躍に祭理の水着姿。
取れ高抜群の温泉回は、こうして幕を下ろすのであった。
─────────────
ここまでお読みいただきありがとうございます。
「面白い」「続きが気になる」「はよ書け」と思った方は、作者&作品フォロー、☆レビューをよろしくお願いします!
伝説の元S級探索者さん、妹のダンジョン配信を女装して手伝っていたら、"謎の最強美少女カメラマン"としてバズってしまう 反宮 @mayo9029
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
フォローしてこの作品の続きを読もう
ユーザー登録すれば作品や作者をフォローして、更新や新作情報を受け取れます。伝説の元S級探索者さん、妹のダンジョン配信を女装して手伝っていたら、"謎の最強美少女カメラマン"としてバズってしまうの最新話を見逃さないよう今すぐカクヨムにユーザー登録しましょう。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
参加中のコンテスト・自主企画
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます