第20話 温泉ダンジョン 其の4
赤骨龍の口が開き、炎が溢れ出した。
俺は高く飛び上がり、上空から飛ばした糸を利用して赤骨龍の背後に回る。
先ほどの炎で他の戦闘員達は後退していた。
赤骨龍が尻尾を振りかぶるような仕草をした。
そのままこちらに向けて振り抜くと、無数のトゲ状の骨がこちらに向かって飛来した。
「ちっ……!」
再び飛び上がり針をかわすが、赤骨龍は間髪入れずに空中の俺に向けて炎を吐いた。
かしこい奴だ。獲物の仕留め方を知っている。
だがその炎は悪手だぞ。
自分の視界まで奪ってしまうのだから。
「とりあえず一本っ!」
俺は炎を掻い潜り、赤骨龍の死角から後ろ足を切断した。
甲高い悲鳴を上げながら悶える赤骨龍。
飛び上がりながら放ってくる骨飛礫をよけ、懐に入り込む。
瞬間、胴体から火の粉が散るのがみえた。
「あっぶねぇ!」
反射的に離れると、赤骨龍の胴体から己を包み込むように炎が舞い上がった。
灼熱の鎧を身に纏った赤骨龍が、こちらに向かって飛んでくる。
「ウォーターシールド」
俺は魔法で巨大な水壁を作り出し、赤骨龍にぶつけた。
蒸発した水蒸気が、霧となって赤骨龍のを包み込む。
赤骨龍の攻略法その1。炎を纏ったら水をかけましょう。基本ですね。因みにその2は知らない。
敵を見失った赤骨龍の死角から、俺は骨翼を根本から断ち切った。
地に落とすことは許さない。
張り巡らした糸を赤骨龍の身体をに巻き付け、身動きを封じる。ブルースフィアレントドラゴンの時と同じやり方だ。
「すげぇ! マジで一人でやっちまったぞ!」
「やべっ、俺惚れちまったかも」
「あれホントに人間かよ!」
全員が勝利を悟って歓声が湧き上がる。
だがその瞬間、赤骨龍の身体から炎が吹き出し、糸を焼き切った。
「ちっ。厄介だな……」
やはりそう簡単にはいかないか。
地上に降り立った赤骨龍が、咆哮を上げる。
どうやら本気で怒ったらしい
さて、どうしたもんか。
今更だが、俺はこのモンスターと非常に相性が悪い。
脆い関節部分を切断する事はできても、致命傷を与える事は出来ない。
どういうわけか、アンデット系のモンスターは内臓と血肉がないにも関わらず動いている。
しかも硬い。
俺のスタイルは生物を殺す事に特化しており、この手の化物には分が悪いのだ。
それでも人型のスケルトン程度ならバラバラにしておしまいなのだが、ドラゴンとなると難しい。ナイフと糸では破壊において限界があるのだ。
「やるしかないか」
俺は赤骨龍に向き直ると、右手を翳し、唱えた。
「千なる氷の御霊よ。理の主よ。我の盟約に従い、汝の力を与えたまえ──」
赤骨龍が口を開け、炎を放とうとする。
だが、遅い。
「──ブリザード」
俺の手に集まった青白い光から氷結魔法が放たれる。
空気を凍らせながら、赤骨龍へと向かっていき、その巨大な身体ごと覆い尽くす。
抵抗の余地もなく氷漬けになった赤骨龍をみて、探索者達にどよめきが走る。
「なんだ、今の……」
「信じられねぇ。どんな上級魔法だよ……!」
「ドラゴンごと凍らせちまったぞ!?」
驚嘆している奴らの視線が、俺に集まるのが分かった。
こんなことできるなら最初からやれと思うだろうが、そうも行かない。
聞こえない程度の声量で詠唱した為勘違いしているみたいだが、今のは初級魔法のブリザードだ。そもそも俺は上級魔法どころか中級魔法すら使えない。
初級魔法を最大火力でぶっ放すのは実に効率が悪い。おかげで魔力がすっからかんだ。
1日1回が限界だろう。
これは俺の体質の問題なので仕方ない。
「姐御マジパネェぜ!!」
歓喜する探索者の中には、こちらにカメラを向けて配信している様子の人たちもいる。
どこもかしこも盛り上がっているみたいだ。
「おねぇちゃんっ!」
探索者の人混みの中から祭理が走ってきた。
「大変だよ! おねぇちゃん今トレンド1位だよ!?」
どうやらSNSなんかで俺の話題が急上昇しているらしい。
「今私の所に取材の依頼が来たよ! どうする!? 受けちゃう!?」
俺はメモに「うけるわけないだろ」と書いて、祭理に突きつけた。
当然である。こちとら女装の身。下手に探りを入れられでもしたらかなわん。
W(旧トゥイッター)を開いてみると、確かに俺に関する呟きが見つかった。
〈なんかのやらせだろ〉
〈ゴスロリとかキャラ作り必死すぎwwキッショwww〉
〈俺ならこんな女ワンパンだわwwww〉
アンチ湧いてるじゃん。
「アンチがいるのは人気者の証拠だよ。良かったね」
よくはねーだろ。
変な迷惑野郎とか出てくるかもしれないし、正体暴いてやるとか言ってタチの悪い事する奴が現れたら厄介だ。
その時はアンチ収穫祭と称し、アンチ共を血祭りに上げる動画を投稿して視聴者たちを震えあがらせてあげよう。なんてね。
そういえば祭理にもアンチはいるのだろうか。
エゴサしてみようと思ったが、やめた。
いたとしてもどうしようもないし、ただ嫌な気持ちになるだけだ。
「よしっ、こっちだ。先進むぞー」
誰かが声をあげ、みんなを扇動する。
俺達は、氷の中で完全に沈黙した赤骨龍の横を素通りし、目的の温泉目指してダンジョンの中を進むのだった。
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