夢のスパイグッズ開発 = 天使と死神の物語 =
あきこ
夢のスパイグッズ開発
「今回新しく開発したメガネ型のグッズだ。ウチの開発部の自信作らしい。意見を聞かせてくれ」
原田優は、白い丸テーブルの向かいに座る早瀬良平に眼鏡を差し出しながら言った。
良平は優が差し出した眼鏡を受けとる。
「……」
眼鏡はやはり見た目通り重かった。
良平は受け取った眼鏡を広げフレームを触ったりして確認する。
ガスケット付きで、保護眼鏡として使えそうではある。太いフレームには装飾の小さな宝石のように光るガラスがいくつかはめ込まれていて、そのうちのひとつはカメラのレンズだが、そうだと思って見なければ装飾のひとつにしか見えない。
他のいくつかの装飾部分は操作ボタンをカムフラージュしているようだ。
マイクも付いているし、そして耳の部分にしっかりと密着させた骨伝導のイヤフォンにもなっている。
いろいろ機能があるからか、見た目はとてもゴツイ眼鏡になっていた。
「……性能は良いのかもしれないけど、見た目がちょっとどうかと……これを普段使いするような人は居ないと思います。 ガスケット付きをオフィスでかけてるひとは居ないでしょう?」
良平は眼鏡をまじまじと見て言う。
良平の言葉に優は苦笑いした。
「やはりお前もそう思うか?」
優はそう言いながら取扱い説明書をすっと良平の方に差し出した。
良平はそれを受け取ってペラペラとめくる。
「へえ……グラスが分厚いと思ったら二重になってるのか、んで、奥のグラスはスクリーンとして使えて、各種情報の表示、地図表示にGPS追跡が可能……」
良平は取説を軽く読みながら呟く。そして優を見る。
「確かに性能は凄そうですね」
「弾丸も弾くし、防塵も防ぐ……あ、当然録音、録画機能もあるぞ」
「なるほど。それでこの見た目にこの重さになるわけですね」
良平が言う。
「ああ、まあ、これでも相当頑張ったみたいだけどな……」
俊が答えた。
「まあ、山とか、スポーツ中とかなら、スポーツ用ゴーグルのようなデザインに変えれば使えるんじゃないかな? でも、これをオフィスへの潜入捜査の時に使うのは……ちょっと」
良平はそう言いながら眼鏡をかけてみる。
「まあ、かけてる分には少し重い位で違和感はないけど……」
そう言いながら地図表示のボタンを押す。
「あ〜」
眼鏡をかけた良平を見ていた優が声を上げた。
「ダメだな、地図がカラフルに表示されているのがこっちからも分かるわ、これは使えないな」
優がそう言ったので、良平は眼鏡を外してクルっとひっくり返し、表面を見る。
確かにカラフルな色が見えた。
「サングラスにして見えないようにするとか、工夫が必要ですね。……それにしてもフレームが太いなぁ」
そう言いながら良平は取説のページをめくる。
「夢を全部詰めました……と、開発部の連中は言ってる。なんかのマンガで出てくるようなスパイグッズより良いものを作るのが目標らしいぞ」
優が言った。
良平は色々書かれている機能の一覧を見た。
「ふうん……ん? 攻撃機能?」
「ああ……それな。爆発させるとか、麻酔針飛ばすとかアイディア出てたんだけど……物が飛び出すとか爆発は危なすぎるから却下した。他に考えると言ってたけど、結局どうしたんだろ?」
攻撃機能に優も少し興味ありげに覗き見る。
「ん? 右側のモダン部分を外す……」
取説を見ながら右側の耳に掛ける部分の先を引っ張る。パカッっとその部分がとれて、細い針が出てきた。
「おお、針だな」
良平は少し楽しそうな声で言う。
「毒を塗るなり、麻酔針にするなりして、つかえそうだ」
良平の言葉に優は頷いた。
「そうだな、これ、外国でつかう分にはいいかもな。踏み込みの時にも使えそうだ。……ん? で、これは? このボタンを押せと書いてる」
そう言い、優が眼鏡に手を出した。
「あ! それはヤバいかも……」
取説を読んでいた良平が声をあげる。
「ん?」
優は既にボタンを押していた。
シュッー
突然、めがねの左側の縁から霧状のものが吹き出された。
「うっ」
2人は慌てて手で口もとを覆う。
「……これは……だめだ。眼鏡かけてる本人もねむっちまうよ、優さん……」
頭をクラクラさせながら良平が言う。
「ああ、このグッズは開発部に……さし……もどし……」
2人はテーブルに突っ伏した。
「夢のスパイグッズ開発」 完
夢のスパイグッズ開発 = 天使と死神の物語 = あきこ @Akiko_world
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