黒いメガネを掛けた君

城華兄 京矢

黒いメガネを掛けた君

黒いメガネを掛けた君。

 

 君はいつでも、真っ直ぐな眼差しで授業を受けている。僕はそんな君の横顔が好きでいつも近くで見入るばかりだ。

 

 少し唇を噛みしめるように、熱心に鉛筆を取り、黒板とノートを交互にみやりながら、懸命に勉学に勤しむ君の姿につい心引かれ、周囲の雑音や、教師の声も掠れ、教室の風景さえも目に入らなくなるほど、ついつい見入ってしまう。

 

 だが、僕の気持ちは君に届く事は無いだろう。僕には声を出して君に伝える勇気もないからだ。唯静かに、日常の中の君をただ見つめ、ただ追いかけるだけである。

 

 短い休み時間には、友達との会話で、白い歯を溢し、柔らかな唇を笑顔で見たし、メガネの向こうの君の目は、優しく緩み、その笑顔がとてもチャーミングで、またまた僕は君に見入ってしまう。

 

 黒いメガネを掛けた君。

 

 君はどんな景色を見ているのだろう。

 

 僕は君と並んで歩くことはないけれど、どれだけ君と同じ視線で、君と同じ世界を見ることが出来れば素晴らしいだろう。

 

 だけど僕は君と並んである歩く事はない。君にこの気持ちを伝える機会はないからだ。

 僕はただ、黙って君の日常を見守るだけである。

 

 君はどんな視線で、学校の黒板を見て、ノートを見て友達を見るのか、どんな景色を見ているのか、どんな空を眺めているのか。

 

 僕は、君と同じ景色を見たい。同じ景色の色を感じたい。

 

 どうせ、話せぬ僕ならば、いっそ君のメガネにでもなる事が出来れば良いのに、そうすれば君と同じ日常を僕も過ごせるに違いない。

 

 黒いメガネを掛けた君。

 

 僕は君をただ、見るだけには飽きてしまった。

 朝の君も、昼の君も、夜の君も、いつもどこかで君を見ているが、ただ見ているだけでは我慢出来なくなってしまった。

 

 僕は様々な君をもっと知りたい。君と同じ視線で世界を過ごしたい。

 

 レンズ越しで君をただ見守るこの毎日はもう飽きてしまった。そうだ今度君のメガネをすり替えよう。僕はキミの事なら、何でも知っている。

 

 そう何でもね。

 

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

黒いメガネを掛けた君 城華兄 京矢 @j_kyouya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ