ホルスタイン女子高生と近未来を見るめがね KAC20248 [めがね」

愛田 猛

ホルスタイン女子高生と近未来を見るめがね KAC20248 「めがね

週末を控えた魔法学園の午後。


生徒はみな、休みを前にしてのんびりしている。


教室にヤギ先生が入ってきた。先生は本当はヤギではなく雷を操る魔物らしいのだが、皆ヤギ先生と呼んでいる。なお、かなり年を召していて、彼が魔法を使うのを見た者はいないと言う。


ヤギ先生は、教卓の上に一つのめがねを置いた。

何の変哲もない、普通のめがねに見える。


知りたがりのミノタウロス女子高生、ミノ子が先生に尋ねた。

「先生、それは何のめがねですか?」


先生はにっこり笑い、質問に質問で返す。

「何だと思うかの?」


生徒は皆、ざわついている。

「これも魔道具だよね。夜目が利くやつかな?だったら俺は要らないな。」ドラキュラムササビのドムが言う。ドムは夜に血を吸いに飛ぶので、夜目が利くのだ。


「もしかして、服が透けて見えるメガネか! だったらペガちゃんの…」お調子者のケンタウロス男子のケンタが、そう言いながらペガサスの美少女、ペガのほうを見る。



「馬鹿なことを言わないで!」ペガがケンタの頬を思いっきり平手打ち。


ヤギ先生が、答えを言う。

「これは、ちょっと先の未来を見ることができるメガネなのじゃよ。」



「どれくらい先ですか?」、ミノ子が聞く。


「まあ、長くて1-2週間といったところじゃな。あまり先のことは、分岐が多すぎて無理じゃ。それに、これで見える近未来は、必ず起こるものではない。起こる蓋然性が高いものでしかないのじゃ。まあ、試しに来週の魔法理論の試験の結果でも見てみたまえ。」


ヤギ先生が言う。


ペガが魔法のめがねをかけてみる。  彼女は少し驚いたようだが、にっこり笑ってメガネを取る。


「何が見えたの?」ミノ子が聞くと、


「試験、満点だった。」とペガが答える。優等生のペガは、いつも成績がいい。



「よーし、俺も!」ケンタがメガネをかける。


メガネを外したケンタは、がっかりして言った。「がーん。赤点で追試だった…これじゃ勉強しても意味ないぞ…」


そこでヤギ先生が言う。

「これで見るのは、あくまで可能性のある近未来でしかない。今からでも勉強すれば、赤点どころか、満点だって無理じゃないのじゃよ。未来は変えられるのじゃ。」


ヤギ先生が教えてくれる。


「よーし、じゃあ勉強するか!」ケンタはやる気をちょっと出したようだ。



次はホルスタイン女子高生、ホル美の晩だ。ホル美はトレードマークの黒白ホルスタイン柄のセーラー服を着ている。胸は服がはちきれんばかりに大きい。今日はショートボブにした髪ではあるが、例によってアホ毛が揺れている。


ホル美はめがねをかけたが、不思議そうな顔をして外す。


「あれ~何も見えない。」


ミノ子が言う。


「ホル美、どうせアンタまた変なことしたんでしょ。ここの調整ボタンとかつまみとかいじったんじゃないの?」

ミノ子が突っ込む。


「うーん、どうかな~」例によってホル美はマイペースだ。


「ちょっと貸してみなさい。」ミノ子がホル美からメガネを取り上げてかける。


それから何回かつまみを回してりボタンを押したりしていた。


一段落したのか、ミノ子はメガネを外す。



そしてホル美に声をかける。

真剣な顔をしているが、声のトーンはやわらかい。



「ホル美、明日朝からうちにおいで。ケーキ作ろう!」


ホル美はぱっと顔をほころばせて答える。

「うん、行く行く、朝から行く!大きなケーキ作って、お昼にごはんとケーキを食べて、それからお昼寝もね!」

ホル美は嬉しそうだ。


ミノ子は笑って言う。

「お昼寝するなら、枕ももっておいで。」


「うん!絶対忘れないで持っていくね!」

ホル美は興奮しながら言った。


そこでミノ子はメガネをかけるが、すぐに外してホル美に渡した。


「ホル美、見てごらん。」

ホル美はめがねをかけなおす。


「わあ~こんなにおっきなケーキ!」

どうやら、明日のケーキ作りの近未来を見るようにセットされたようだ。


「うっれしいな~明日が楽しみ!」


ホル美はニコニコである。


ホル美を見ながら、ミノ子もにこにこしていた。


ミノ子は思う。

(あー、ほっとした。どうなるかと思ったけど、何とかなったわね。あの子は気づかなかったし、もう大丈夫ね。)


賢いミノ子は気づいたのだ。

ホル美が未来を見られない、というのはその時に生きていないのでは、ということを。


ミノ子はメガネを調整し、ホル美が明日の午後、交通事故で死んでしまい、自分が泣き崩れているのを見たのだ。


そこでミノ子はヤギ先生の話を思い出し、明日は朝からホル美を家に呼び、一日一緒に過ごすように未来を変えたのだ。


ケーキを作る、と言えば必ずホル美が乗ると踏んだミノ子は正しかった。

ホル美はお菓子作りをする、という未来を選択し、それによって楽しい時間をミノ子と過ごすことになる。


メガネは、その新しい未来を映し出したのだ。


ミノ子がホル美の方を向くと、ホル美は、ケーキを想像してよだれを垂らしていた。そんなホル美の口元を自分の茶色いハンカチで拭きながら、ミノ子は思う。


(ホル美、あなたのことは私が守る。私は、あなたが大好きだから。明日は一緒にお昼寝しようね!)


魔法学園の平和は、ミノ子によってひそかに守られたのだった。


なお、ケンタは勉強を頑張るつもりだったが、五分後にはそのことを忘れており、試験はしっかり赤点、追試となったのであった。






===

ホル美シリーズ、最新作をお届けしました。ホル美シリーズもKAC2024皆勤賞です。

(最終話ではないと思います。)


魔道具や魔法、超能力はラノベの定番ですね。

ラノベというジャンルがないころは、その辺はSFの独壇場でした。


特に筒井康隆先生の「七瀬ふたたび」は超能力バトルの名作だと思います。




お読みいただき、ありがとうございました。

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特に短編の場合、大体が一期一会です。


袖すりあうも他生の縁。

情けは人のためならず。


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…もちろん私が最初に幸せになるんですけどね(笑)。


















「ホル美は死なないわ。私が守るから。」(by なぜかプラグスーツを着たミノ子)

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ホルスタイン女子高生と近未来を見るめがね KAC20248 [めがね」 愛田 猛 @takaida1

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