元国家錬金術師・リリアは自分の『好き』を追求するために職を捨てて、小さな食堂を開業した。
壁にはリリアの思考を描いた『味の地図』が貼られ、厨房は化学反応を引き起こし、黒板には「今日の実験」という札が掛けられてる。
店内はさながら静かな実験施設だ。
「今日は“離し”をお見せしますね」
「じゃあ、匂いの階段を上ってみる練習をしようか」
「灰で揉んで、海で戻そう。それで“苦い”を外へ追い出して」
次第に入り口に列が生まれていく。
朝から客が静かに笑ってる店は、港街には珍しい。
やがて、黒板の下に小さな札が掛けられた。
<きょうの実験 成功>
そこが、彼女たちの居場所なのだ――。
今日の一匙が、明日へと味を渡す。
あなたも“おいしい空気”を感じてみませんか?
戦で培った錬金術を、火加減と塩梅で組み直す——この発想がまず新鮮。
引退した天才錬金術師リリアが港町で開いた小さな食堂は、ただおいしいだけの店ではありません。香りの立ち上がり、温度差で作る層…理屈と手仕事がぴたりと噛み合う調理描写に毎話ワクワクします。
天性の嗅覚・味覚の持ち主カイ、寡黙な衛兵ヨナ、港町の様々な人たち——人の体温がテーブル越しに伝わる群像も魅力。小さな困りごとや市場のトラブルを、“レシピと論理”でほどいていくカタルシスが心地よく、後半のレシピを試したくなります。
家族・お仕事・ごはん、そしてほのかな恋。やさしさと知性のバランスが絶妙な、“居場所”の物語です。