メガネ日和[KAC20248]
ガビ
メガネ日和
「あ。ちょっとメガネ屋さんを覗いて良い?」
「良いけど、桜、目悪かったっけ?」
「全然。視力検査で点みたいに小さいやつにも答えられるくらい良いよ」
そういえば、視力検査の時にやたらと張り切ってたな。
「じゃあ、なんで?」
「今日買った服に合いそうだと思って」
さっきまで、私と桜はショップにいた。お互いを着せ替え人形にして楽しかった。桜は基本的に何でも似合うから、購入するものを絞るのが難しかったが、ダボっとした黒いカーディガンと白いロングスカートにした。
購入してから、そのまま着てくれている桜の姿を改めて見る。
「‥‥‥まあ、確かに似合いそうだけど」
本人は否定するだろうが、桜は美人だ。
学校ではイジられキャラだから自覚が無いようだけど、今時珍しい黒髪ロングで、モデルだと言われれば信じてしまうレベルのプロポーションに憧れている子は多い。
私を含めて。
この間、体育のバレーの授業で鼻血を出させてしまった時は肝を冷やした。
一応、バレー部のエースである私のサーブが、桜の綺麗な顔に直撃した。
その時の桜の顔‥‥‥。血にまみれた顔を見て、私の何かが目覚めそうになったが、治療に専念することで誤魔化した。
たぶん、私は桜が好きなんだ。
それに比べて、私はダメだ。
部活でついた筋肉は男の子受けしないだろうし、成績が悪いくせにメガネをかけている。
漫画やドラマの中のメガネのキャラクターは、クールで魅力的だけど、私がかけでダサいだけだ。コンタクトも考えたけど、目薬すら挿せない私にはハードルが高すぎる。
ただでさえ、綺麗な桜がメガネをかけたら、私のダサさがより目立ってしまう。
「うん‥‥‥まあ、いいよ」
だから、こんな煮えきれない答えになる。
バスケ部では持ち上げられていても、ショッピングモールではオシャレに自信を持てない、ただの中の下の私だった。
\
メガネをオシャレでつけることに反対する人がいるらしい。
視力を支える医療器具なんだよふざけんな。みたいなことだったと記憶している。
気持ちは分からなくもないが、その人達も、今の桜を見たら何も言えなくなるだろう。
何故なら、完璧だったから。
そこには、吉祥寺で古本屋さんを営んでいそうな女性がいた。「趣味は読書です。この間、本屋さんに行ったら3時間も居ちゃって‥‥‥旦那に呆れられちゃいました」とか言い出しそうな美人さんがそこにはいた。
「めっちゃ似合ってる! 買った方がいいよ!!!」
気がついたら、そう叫んでいた。
「杏奈、嬉しいけど、お店の人に迷惑だから」
静かな声で嗜めてくる。
周りを見ると、お客さんや店員さんが何事かいう目をしていた。
「すみませんでした」
「すみませんでした」
私と一緒に頭を下げてくれる古本屋のお姉さん‥‥‥ではなく親友の桜。
学校では、はっちゃけていることが多いが、世間様とは一歩引いているらしい。
大人だ。
その美しい横顔に見惚れる。
先ほど考えていた、メガネに対するコンプレックスは、いつの間にかどこかへ逃げていた。
\
「桜! 今度はこのメガネかけてみて!」
「えぇ。さすがに派手すぎないかなぁ」
「桜なら絶対似合うから大丈夫!」
1ヶ月後の学校での昼休み。
みんなが、お弁当を食べ終わったタイミングで新しいメガネを桜に差し出していた。
「出たー。杏奈のメガネショー」
「私、最近楽しみになってきたかも」
同じグループの成海と摩耶ちゃんが何か言っているが、桜が赤いメガネをかける瞬間に集中していたら聞き取れなかった。
オォフ。
危ない。気持ち悪い声が出るところだった。
似合う。似合いすぎている。
制服に赤メガネ。何故だか部活の先輩っぽく感じる。例えばそう、吹奏楽部の‥‥‥。思い出せないけど、アニメの影響だろうか。
「いつも私ばっかりだからさ、杏奈もかけてみたら」
そう言って、桜は私に赤メガネをかけてきた。
え。ダメ。ダメだよ。私みたいなブスがかけても意味ないって。
そう思ったが、ここで断ったら空気が悪くなると思い、受け入れる。女子高生とは、己の恥よりも空気を大事にする生き物なのである。
「可愛い!」
桜が言う。
「うん。可愛いね」
「杏奈ちゃん、似合ってるよ」
他2名も何か言っていたが、霊の如く聞き取れない。
可愛い。
間違いなく、お世辞で言っている。
分かっているが、真っ赤になるくらい嬉しかった。
「え? え? 杏奈怒ってる?」
「何で? 今の流れのどこに地雷あった?」
「桜ちゃん、とりあえず謝った方が‥‥‥」
3人がとんでもない誤解をしているが、弁明する余裕がない。
あと1分。いや、30秒で良いから、この気持ちに浸らせて。
メガネ日和[KAC20248] ガビ @adatitosimamura
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