眼鏡の向こう側
キロール
体験談
大した話じゃないんだが、俺も一つそう言う体験がある。みんなが話している様な怖い話とは少し気色は違うけれど、まあ、その手の話だとは思う。ヒトコワじゃなくて、お化け的な奴だと思う。
って言ってもそんなに怖くは無いんだ、ちょっと不思議な話って言うか気持ち悪い話っていうか……。まあ、そんな感じとでも捉えてくれるとありがたい。
俺がまだ中学生だった頃の話。見ての通り俺は眼鏡をかけているが、当時から目が悪くて眼鏡をかけていた。その眼鏡のまつわる話だよ。
うちの家族は俺以外は眼鏡をかけていない。俺だけ目が悪くなったのはゲームのやり過ぎだとかお袋は言ってたが、実際はどうだか分からない。目が悪くなった理由はたぶん関係ないから置いとくが、当時も今も家で眼鏡を使っているのは俺だけなんだと分かって貰えればそれで良いんだ。
で、問題の話だが中学生の頃、俺以外に眼鏡をかけている奴が家にいた。言ってることが矛盾している? 確かにな。でも、そうとしか思えないんだ。
ある日、朝起きて顔を洗おうと洗面所に行くと見知らぬ眼鏡が置いてあった。俺のじゃない。絶対に違う事は断言できる。何せ度数が全くあってないんだからな、俺のだとしたらレンズ交換に即座に行くレベルだ。
なんじゃこりゃと思った訳よ。で、朝飯の時に家族全員に聞いたのさ、洗面所にあるあの眼鏡はなんだって。そう、案の定誰も心当たりがないってんだ。まあ多感な時期だったし色々と考えたさ。親父かお袋が浮気して、その相手の奴じゃないのかとか。あとは姉貴が彼氏でもつれ込んで……とかな。
でも、平日の朝の洗面台に普通は置かないよな。だいたい家族が揃っている平日に普通は浮気相手を連れ込むはずもないし、彼氏だって連れ込まないよな。そう言うのは外で色々やるだろう。特にうちは両親共働きだ、そんな機会は幾らでも設けられる。
家に一番多くいたのは俺だったからどっちかって言うと誰か連れ込む可能性があるのは俺なんだ。だけれども、全く心当たりはない。俺は言っちゃなんだが中学生の時は陰キャの中の陰キャ、家で一人でゲームするか漫画を読んでいるのが至上の幸せだったんだから。
だからさ、見知らぬ眼鏡があるのが凄く嫌だった。勝手に人のテリトリーに入って来られた気がしたんだろうな。まあ、今でも気持ち悪い話だが。
そんな風に誰の物かも分からない眼鏡が時々洗面所に現れた。そして、そいつを間違えて掛けた時は最悪だった。誰かの眼鏡をかけちまうと、必要としている誰かは俺の眼鏡を使いやがるからさ。俺自身の眼鏡が見つかるまでは眼鏡無しの生活を送らざる得なかった。それが辛くてスペアまで買ってもらったくらいだ。
変な話だろう? ただ、これだけだとお化け的かは分からんよな。頭のおかしい誰かが忍び込んでいる可能性もある。でも、その眼鏡変なんだよ。
その眼鏡をかけて周囲を見ると度数があってないから色々と見え方がおかしいんだが……。しばらく我慢してかけていると家族のほかにもう一人誰かがいるのに気付いた。
ぼやけて焦点の合わない視界だが、人の数くらいは数えられる。うちは俺を含めて四人家族だが、その眼鏡をかけている間だけは俺以外に四人いる。視界はぼやけて歪んでいるからどんな奴かはよく分からない。で、同じぼやけんならってその眼鏡をはずすと人影は三つになるのさ。中学生の俺はそれが何だかたまらなく嫌でさ。気味悪かったぜ。
収まったのは始まった時と同じように突然だった。正確には覚えてないが高校に進学した時から謎の眼鏡を見ることは無くなったよ。結局あれが何だったのか、はっきりと分からない。ただ、きっとあの増えていた一人が掛けていた眼鏡なんだろうなって思っている。
もしお前らも家に見知らぬ眼鏡が置いてあっても、かけない方が良いぜ。万が一度数があっちまったら見なくて良いものをはっきりと見てしまうかもしれないぜ? なんてな。俺の話は以上だ。
<了>
眼鏡の向こう側 キロール @kiloul
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