第2話 穴と女の子
「暗い」
そう、そこで動けなくなった。
闇だと足下が見えず、危険ばかりが増大する。
一歩先が穴だったら、そう思ったら、足が踏み出せない。
だけどここに居れば、死ぬのは目に見えている。
さっき水を汲みに行ったときに、先に汲んだ水筒分。
それが命綱になっている。
また同じ時間、引き返せば水はある。
だけど煮沸も出来ない。
さっき落ちた穴のこともあるし危険はある。
雨水が直接流れ込めば、動物のし尿による汚染。そんな事もありうる。
壁にすがり、じわじわと足をすり足で出していく。
そうしてさらに何時間か。
何か雰囲気が変わり、空気が少し暖かくなった。
「あんれ。変わった格好。お兄ちゃんどっから来たの?」
「声がするが見ることができない、どこにいるんだ?」
「にいちゃん。かぁわいそうに、目がぁ見えないんだね。ちょっとぅ、まぁってて」
そう言って気配が離れていく。
おお? 気配探知が生えた。
そんな事を思っていたら、手が繋がれた。
小さな手。
「にいちゃん。わたしらぁと違うんだってなぁ。おくるから、ついてきて」
そう言ってぐいぐいと、手が引かれる。
そこから何時間が経ったのだろう。曲がりくねり、崖を降り。また登ってひたすら歩く。そしてやって来た突き当たりの大石。
「こっちにすきまぁある。そこを抜けたらぁ、外だから。わたしぃ、は出れねえから」
彼女がそう言ったときに、外からの月明かりだろうか、差し込んできた。
おかっぱ頭で、何かの革を鞣したような服。
そして、彼女の眼空は大きくヘコみ、暗闇が二つ、こっちを見ていた。
「うっ。ああ、ありがとう。何か御礼をしたいが今何も無い。すまない」
「いいんだ。じゃなぁ」
そう言って、真っ暗い闇の中へ、走って消えていった。
その岩の隙間から出てみると、しめ縄が張られ、かなり厳かな雰囲気で祭られた、大岩が複数重なったもの。
外へ出ると、きっちり立ち入り禁止の看板が立てられていた。
その社は、有名なところで、キャンプ場まで、おおよそ七キロくらい離れている。
眠いし足が痛い。
もう少しで夜が明ける。完徹二日は辛い。
何とか、帰り着き。
飯を食って寝たら、また夜になっていて、あわてて家へと帰る。
あすの朝から日勤。
だがその晩から、彼女の顔が夢の中に出て怖い。『めがねえ』いきなり目が覚める。
命の恩人で申し訳ないが、見るんじゃなかった。
そう思いながら、眠い目をこすりながら仕事へと向かう。
KAC20248 恩人の顔が夢に出る。助けてくれ。 久遠 れんり @recmiya
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