KAC20248 恩人の顔が夢に出る。助けてくれ。

久遠 れんり

第1話 キャンプ場と穴

「おーしおし。久々にキャンプをしよう」


 夜勤明けのハイテンションのまま、ザックにパッキングをして、車に飛び乗る。

 車に飛び乗ると、ウエブサイトから使用申請を出す。


 いつも行くのは、山奥のキャンプサイト。


 駐車場は未舗装だが、サイトのすぐ近くまで車に乗っていける。


 さらに美味い清水が湧き、飲用可なのだ。


「んーんーんー。んんー」

 蝋人形の館を鼻歌で歌いながら、ご機嫌で山に向かって行く。

 正面の空は多少暗雲が立ちこめているが、サイトの少し高台にターフを張れば良いだろう。

 ちょっとくらいの雨なら、たき火の延焼を気にしなくて良いし。


 無事到着をして、めがねをど突きサングラスに代える。 

 そう、このサングラスは殴ってくる。

 なんでやねん。そう、度付きだな。


 とうとう、完徹のせいでテンションが限界突破してきた。


 さっさと、テントを張り、寝られるようにマットの上にシュラフを出す。

 そして焚き火台を取りだし、パイプチェアを車から持ってくる。

 むろん薪や、鉈も準備をする。


 だが、火口ほくちは仕方が無いが、薪の下に敷く焚き付け。薪をちまちま削ってフェザスティックを作っても良いが、面倒。

「おし、拾ってこよう」

 杉の枝は刺さるが、燃える。ヒノキも良いなあ。

 そのあたりで、拾うつもりで少し山へ入った。


 折りたたみタンクも担ぎ、ついでに水も汲んでこようと考えた。


 水場で、タンクを洗い、溜めている間に、焚き付けを探しに行く。


 この辺りは、ちょこちょこ巨岩が生えている。


 ものによっては、いきなり十メートルを越えているものがあったりする。


 そしてそんな巨岩の脇を通り掛かったとき、足下が抜けた。

 突然スカッと。


 あわてて、腕を広げて土を掴もうとするが、俺はひ弱だった。

 十字懸垂など出来やしない。


 岩の側面が意外とつるつるで、それに沿って水に浸食されたようだ。

 つまり、ハマると抜け出せず、餓死をして死んでいく、非常に辛い死が待ち受けている。


「ああ。終わった」

 そう落胆をすると。岩の下は穴があったらしく。

 そこから下へ、真っ暗な中落下をする。


 やってみろ。すごく怖いから。


 人間の想像力は偉大なんだ。


 だけど、数メートルで水に着水。

 だが、真っ暗で見えない。

 それに、めがねをサングラスに代えたせいで、全くもって駄目だ。


 知っているかい、真っ暗い所でサングラスをかけても、役に立たないんだ。


 腰のキーホルダーについている、スモールライトを点灯させる。


 すると、すぐ近くに岸がある。


 何とか這い上がる。

 地下水脈ものすごく水が冷たい。

 さっき、落ちてきた穴から、薄明かりが届いているが、周囲がはっきり見えるほどでは無い。


「さて困った」

 スマホを出す。当然のようにアンテナが立っていない。



「誰だ、こんな山の中へ来た奴は」


 しばしかがんで、寒さをしのごうとするが、寒い物は寒い。

 薪でもあれば、メタルマッチを装備しているから、火はつけられるのに。


 一瞬馬鹿な考えが浮かぶ。

 上着を燃やそうとしやがった。


 こんな水を吸って濡れ濡れの上着だが、乾けば使えるというのに。


 どこかに穴があれば、流木でもないかと探してみることにした。

 どう考えても、水の中からで三メートル以上は飛び上がれないし、動けば少しは暖たまるかもしれない。


 水の流れと、また泳ぐ気がしなかったので下流へ向かう。


 そしてそこで、誰にも言えない体験をすることになる。


「終わりだ……」





 目の前にあるのは滝。

 地下水脈の滝は、見えないから面白くない。

 ほんの三メートルなのか、百メートルなのか。


 水には濡れたくない。その思いから、端っこの崖を下っていく。


 意外と段差は低かった。ほんの七メートルくらい?


 だが、足下は水で、壁は抉れ込んでオーバーハング状態。今は丁度…… 何というのか判らないが、ルーフ部分の水切りに乗っている状態。

 何とか、手だけでぶら下がっていく。

 少しでも水面近くへ。


 そう思って頑張る。

「あっ」

 抉れ込んだ先は、道というか段になっていて、濡れなくてすむ。


 そう思いながら、視線の先で段が上に向かって消えていく。

 そう、滝壺に落下をした。


 指先はそんなに鍛えていない。

 某番組にでる選手のように、指先だけでぶら下がり、体を振るなんて出来るはずない。

 それに段に着地し、背中から落ちると、どこかにぶつかる事もある。怪我も危ないしな。


 結果良し。


 と言う事で、またずぶ濡れに逆戻り。

 滝の裏を抜け反対側だが、こちらも滝壺。


「両サイドの岩が硬く。その間が抜けた感じとなっている。これは…… なぜだ」


 まあ良い。気になるのは滝の裏。見事なトンネルというか洞窟がある。


 そこへ、入って行く。

 スモールライトは、ボタン電池が三個だったか四個だったか、そんなタイプ。何時間持つのかが判らない。

 

 悠長に考えている暇は無い。


 だが、そのときはやってくる。

 結構長く歩いた。


 だけど、何処へ到着をする事も無く、トンネルは続く。


 やがて…… 闇になる。

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