第6話 事後報告

 結局、西脇さんの遺産を全て売り払うまでには数か月の期間が必要だった。

 遺産の内容は多岐に渡っており、一括で売り払うより項目ごとに専門の企業へ売る方が高値で買ってもらえるという、会長ばあちゃんの意向だった。

 結果、想定よりもかなり高額売れる事となり、会社に入る手数料も想定の倍近くになった。

 仕事が上手くいくのはやはり嬉しい。

 ❘わたし《オレ》は小躍りしたい気分で、報告書類をまとめていると不意に課長がやってきた。

「今回はすごい利益じゃない。」

「そりゃあ、いつもの様な利益になりにくい案件じゃないからね~♪」

 他に社員がいないことをいい事にわたしはラフに返す。

 課長とは身内の様なものだし、プライベートならこの程度の距離感で話している。

「まあそうよね。再発明王の案件ですもの利益が出ない方がおかしいかしら。」

 浮かれている様に見えたのか、課長がチクリとわたしに小言を返す。

 せっかく人が良い気分で仕事に励んでいるのに。

「ところで、西脇さんの再発明についてだけど、さっき買い取った企業からお礼とともに解析結果報告が来たわ。」

 仕様書を買い取った企業もそのまま制作するわけにはいかないだろうから解析するのは当然か。

「あの仕様書、全てが西脇さんの手によるものではなみたいね。」

 唐突に重めの話を入れてくる課長。

「も、もももしかして盗作!?」

 思わず動揺して大声をあげる自分。

「そんな訳ないでしょ、一部に再現元となる資料が含まれていたってこと。」

「再現元となる資料??」

 オウム返しで聞くわたし。

 再現元?

 再現、再現……!!!!!

「もしかして……、大災厄前の設計図ってこと?」

 私は口にしながら背中に冷たい汗が流れるのを感じる。

「そっ、そういう事。」

「特殊情報法案件じゃない!!大事よ!!」

 軽い感じで返す課長にわたしが思わず大声で返す。

 だが、課長は薄く笑みをたたえながら、まるで物覚えの悪い生徒に言い聞かせる教師のように話をする。

「特殊情報法は、特殊情報をに教えた場合に適用されるの。 今回私たちはこれが特殊情報とは知らなかった。 売り払った後に解析して分かった事ですもの。」

 課長の言いたいことが分かった。 特殊情報だと知っていたのは西脇さんのみ。

 むしろだからこそ生前は公開を控えていたのかもしれない。

 そこで死後に詳細は伏せておきながら公開できるよう手筈を整えておいた。

 結果、特殊情報法としては西脇さんの罪となるけど、肝心の当人はすでに亡くなっているため、生存している関係者全員は無罪と。

 元婚約者と息子の為とか言いながら案外に策士だった訳だ。

「それと西脇さんのご親戚や知人が最近、色々と取り沙汰されているから、企業側も西脇さん名前を伏せたいって話が来ているわ。」

 課長が続けて話をする。

 まあ、そのとおりだ。

 結局あの後、和寿さんは夜警活動を辞めなかった。

 むしろ遺産を利用することでその活動の幅を広げており、今はご両親の無念を晴らすかのように、二人の仲を裂いた人々の醜聞を白日の元にさらしている。

 それが正しいのかはわからない。

 けど、彼は自分のやりたい道を進んでいるのは確かだ。

「ところで、この西脇さんのご子息って結構かっこいいじゃない。 もしかして……。」

「そんな訳ないじゃない。 暴力的なことしてくる人なんて眼中にないわ。」

 課長が野暮なことを言ってくるのを切って捨てる。

 そう、暴力的なことを言っているのに優しそうだったのだ、めがね……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ゆきて、その果てに サイノメ @DICE-ROLL

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ