第5話 必要とされるモノ
「では説明しますね。」
ファイルを俺に手渡すと回天堂は切り出す。
「これは西脇さんが再発明したもののまだ世間に公表していない技術についての仕様書などです。」
事も無げに言うが、それは大きいことだ。
「もしかして、これ『特殊情報法』に引っかかるブツじゃないのか?」
俺は確認する。こんな事で警察に目を付けられるのはゴメンだ。
だいたい過去の遺物なんてさばく手立てが俺にはない。
「ああ、それは問題ないです。 これは西脇さんの再発明。 つまり大災厄後の情報ではないので特殊情報には該当しません。」
回天堂が地力説する。
古い品物を扱う奴らだ、特殊情報などを扱う事もあるだろう。 その専門家が言うのであれば問題ないだろうが。
「和寿さんには選択が二つあります。 」
俺の心中を見透かしたように回天度は右手の中指と人差し指を立てて話す。
「一つは資料を政府に提出する。」
左手で中指を倒しながら話す。
「もう一つは、この資料一式をうちが買い取ります。」
「はい?」
想定していない回答が来て驚く。
てっきり俺は廃棄か自分で保管することを提案されると思ったからだ。
「いや待て、古物商であるあんた達がこの最新技術を買い取ってどうするんだよ。」
あわてて話す俺、どこか抗議じみた言い方になったが。
「古物商だからですよ。 恐らくあなたには売りさばくためのつてが無いと思いますが、私たちはこれまでの付き合いから様々な企業と連絡をとれます。 そのネットワークを利用して売りさばこうって訳です。」
その後、「ちなみに」と携帯端末の計算アプリを起動した回天堂は想定される買取値段を俺に見せてきた。
それは生涯年収を軽く超えるだけの金額。
「これ、マジか……。」
「マジも、マジ。 大マジです。」
うろたえる俺に真面目なのかおどけているのかわからない回答をする。
どうもテンポを狂わせられる。
「それに、和寿さんお金が必要ですよね。 恐らく大金が。」
唐突に回天堂が切り出す。
それは図星だった。 俺は金が欲しくて深夜勤務を入れている。
多額の金が必要なのだ。
「この再発明を売ってそれに充てては如何です? それともまだ足りない?」
怪しげな笑みを浮かべる回天堂。
先ほどまでの頼もしさよりどこか恐ろしさが先に立ってきた。
どんなに新人に見えても、俺なんかよりデカい権力を持っている奴であるような。
「街の治安を護るための夜警行為をしなくて済むのですよ。」
俺はこの時ほど驚いたことはない。
夜の街は人通りが少ないとはいえ、まったく無人というわけではない。
数は少ないが道端で世つぶれている人は週に2~3人は見かける。
警察が保険組合の下部組織となってからは、これらの人を保護されることも少なくなり、彼らが窃盗の被害にあうならまだしも、拉致された上で殺害、挙句の果てに臓器を売られて、表向きには行方不明。 なんてことも起きている。
俺はそんな街の暗部から人々を護るためにできる事を考えた。
その結果、選んだのが回線保守をしながら街を巡回しトラブルが起きる前に人を保護する。 目の前で犯罪が行われている場合は覆面やプロテクターで身を包み強制的に犯罪者を排除する。 いわゆる夜警行為をしていた。
これも全ての警ら巡回が有料化したためであり、自治体としてもその金額を抑えるために時間を絞らざるを得なかったのだ。
その金額を捻出するのは本来、政治家や役人の仕事であるが、なかなか実行に移さない。
それは財源問題があるためだ。
新たな施策を実施するためには継続的に資金を投入する必要がある。
その為の財源確保がうまくいかない。
「確かに、売った金を条件付きで寄付すればそれで警察の巡回回数を増やすことができるな。」
俺はそのまま考える。
たしかにそれが良い道筋である。
人々は助かり、俺は感謝される。
でも、それでいいのか?
親とは言え他人の金だけで解決してしまって。
俺は俺の意志で街を護りたいんだ。
「提案はありがたく受け取る。 ただ金は俺の口座に入れてほしい。」
「それはどうして? 寄付までうちでやればあなたの手間はかからないわよ。」
回天堂が反論する。 しかしその顔に表情は浮かんでおらず何を考えているかわからない。
「ただ単純に親父の金を寄付しただけで、俺の望みがかなっていいのかと思ってな。」
素直に今の気持ちを口にした。
「だから、どのように使うかは俺の方で決めさせてほしい。」
そこまで言い切ると回天堂をみる。
目をつむり少し考えているようだが、ゆっくりと目を開け答える。
「いいわ。 なら売上金は口座へ送るのでここに口座番号をにゅうりょくして。」
何事もないように端末をとりだし、口座番号入力画面を表示させた。
俺はそれに必要事項を入力し、最後に自分の意志で行った事の欄にチェックを入れる。
緊張したおもむきで俺は回天堂を見るが、
「はい。 これで契約完了です。 売上が出ましたらこちらにご連絡しますね。」
それまでとは違って事務的な回答をして去っていった。
それに対して拍子抜けしたのだが、後から考えるとそれは俺が自分の意志で決めたことに必要以上に介入しないための優しさだったのかもしれない。
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