本当に欲しいんです。
笛吹ヒサコ
是が非でも、欲しいんです。
最後の原稿を読み終えた彼(あるいは彼女)は、すぐに嘴を開かなかった。いや、きぐるみの嘴が開くんだろうか。いや、そういうきぐるみもあるか。
こちらから沈黙を破るべきだろかと考えてると、トリのきぐるみは針金細工のような眼鏡を外す。あ、あれ。飾りじゃなくてちゃんとリーディンググラスだったんだ。なんて、どうでもいいこと考えてしまったのは、多分、トリが開口一番何をいうのか察していたからだ。案の定、
「全然、だめだね」
ですよねぇ。お眼鏡にかわないことは、わかってた。それでも……
苦笑いするしかないわたしに、トリは一つ目の原稿『暇を持て余した皇帝の遊び』をビシッと翼で指す。
「まずは、これ。SNSで【お題で真っ先に浮かんだのが、絶賛エタってる『いかカノ』のこの二人というね。美しい半裸皇帝とお気に入りのギルの日常です。たぶん、これ単体でも読めるはず!!】って宣伝してるけど、エタってる小説のキャラ使って恥ずかしくないの?」
「……」
手持ちのキャラを使ったのは、お題が発表されて真っ先にそのキャラのやり取りを思いつたからだ。黙り込むわたしに、
「完結させなさい。いい?」
「はい」
「あと、なぜ半裸?」
「……ただのヘキです」
「ふぅん」
いや、「ふぅん」てなんだ。なんか余計に恥ずかしいんだけど。
「で、次……」
それから、一つ一つダメ出しされた。本当に耳の痛いことばかりだ。
お眼鏡にかわないのはわかってたけど、公開したのは、
「それで、トリのぬいぐるみストラップのほうは……」
「は?」
「いや、皆勤賞のトリのぬいぐるみストラップ」
それが欲しくて、この企画に参加したんだから。
「ブックカバーは?」
「実はもう持ってるんで」
だから、どうしてもぬいぐるみストラップが欲しい。
「知らんがな」
「ですよねぇ」
抽選ですもんね。今年の運気、使い果たしていいものか、悩ましい。
そういえば、わたしはなんできぐるみにダメ出しされてるんだっけ?
そんな夢を見た。
本当に欲しいんです。 笛吹ヒサコ @rosemary_h
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