お父さんのめがね

K.night

第1話 お父さんのめがね

 ある日、その女子高生は黒縁めがねでやってきました。その子は、ショートカットで地味な子で、前までは淵なしの透明なめがねをつけていました。


 けれど、今回のめがねは違います。角張った、太いフレームの黒い大きいめがね。とてもその女子高生には似合っていませんでした。


 そのめがねで教室に入ってきた時、クラスメートはざわつきました。


「嘘、ヤバすぎでしょう。」


「どんなめがね屋に行ったら、あれを勧められるの?どう見ても顔に合ってなくない?」


「あんなめがね、つけてる芸能人とかいたっけ?」


「いるわけないじゃん、あんなださいの。」


「親とかも注意しないわけ?私、お母さんにバカにされそうなんだけど。」


 その声はその女子高生にも届いていました。けれど、彼女は背筋を伸ばして、いつも通りの授業の準備をしました。


 その女子高生は2週間前に父親を亡くしました。病気です。それまでに彼女は何回か学校を休んでいました。その黒縁めがねは父親のものでした。


 彼女が父親のめがねをかけたいと言った時、母親は反対しませんでした。


 めがね屋に持っていって、事情を話した時、めがね屋も反対しませんでした。彼女の視力に合うグラスに変えると、やや大きいそのめがねが彼女に合うように、何回も何回も調節しました。とても大変な作業なんだと彼女はわかりました。そうして、着けてもずれなくなっためがねです。


 だから、彼女は堂々としていました。大切な大切なめがねだからです。



「ちょっと、誰か注意してあげなよ。」


「そうだよね。それが、彼女のためだよね。」


「なんていうの?鏡ちゃんと見た?って」


 クラスメートは笑います。


「わかった、度があってないんだよ。」


「なるほど、ひどいめがね屋に行ったんだね。じゃあ、私たちが注意してあげないとね。」


 クラスメートが一人立ち上がった時、それよりも早く、一人の女の子がその子の前に行きました。その子はいわゆるギャルで、先生にいくら注意されても髪を明るい茶色に染めて、胸元をざっくりと開くようにして、大きいカーディガンを着ている短いスカートの女子高生。彼女もまた、少し、クラスメートにバカにされていました。


 その子は、めがねをかけた女子高生にいいます。


「はよーん。」


「おはよう。」


「めがね変えたんだね。」


「そうね。」


 ギャルな女の子はちょこんと座って、見上げるようにして言いました。


「よく、見えるようになった?」


 ギャルな女の子は笑顔でいいました。


「…うん。」


「よかったね。」


 めがねをかけた女子高生は、本当にその子の笑顔が前より良く見えるようになったけれど、少し滲んで見えました。

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お父さんのめがね K.night @hayashi-satoru

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