第6話 めでたし、めでたし
「お父さんなんて、大嫌い!」
ぼこぼこにされたトビーを癒したのはエミリアと母ネヴィアだった。
その後、トビーとエミリアから事情を聞き、再び怒りの炎を燃やしたザカリーに水を浴びせたのは、エミリア。
そう言って、走っていってしまい、トビーがその後を追う。
「くそお、トビーのやつ」
「まあ、まあ」
森で再会したエミリア親子とトビー。
体が動けるようになり、トビーからの手紙を読んだザカリーは夜だというのに隣町を出発。もちろんネヴィアも同行だ。
そうして森に入ったら、眩い光。
異変だと二人が光の元を辿ったら、半裸の娘と弟が抱き合っている姿を見たのだ。それを怒るのは理解できよう。
しかし話を聞かないまま、半殺しにするのは間違っていた。
「トビー叔父さんごめんなさい」
エミリア用に購入していた服があり、ネヴィアはすぐにそれを彼女に着せた。ピンク色のフリフリのドレスは暗い森には不似合いだった。
「謝らなくてもいいから。怪我も治してもらったし。兄さんの気持ちもわかるから」
襲われているエミリアを見た時、トビーは魔物への怒りで我を忘れそうになった。そしてエミリアを絶対に守ると誓った。
六歳児に対して覚える感情ではなく、それは明らかに恋愛感情を伴っていた。
彼女の唇が自身の唇に触れ、柔らかい、甘いと思ったところで、彼女が元の姿に戻った。正直がっかりしていた。だが、トビーは自身に芽生えた気持ちを押し殺し、叔父として振る舞っている。
「トビー叔父さん。私小さくなっちゃった。私が大きくなるまで、待っててくれる」
「いいよ。だけど、大きくなって別に好きな人ができたら、そっちに行くんだよ」
「ありえないよ。私はトビー叔父さんが大好きだもん」
六歳のエミリアはとても可愛い。
けれども子供だ。
彼女があの姿になるまで後十年はかかる。
その頃には自身はおじさんで、彼女の恋愛相手にはなれないだろう。
少し寂しく思ったが、トビーは可愛い姪っ子に微笑みを返した。
「待ってるよ」
☆
それから二年が経ち、八歳。
エミリアはまだトビー叔父さんとトビーのことを追いかけていた。
彼女の世界は小さいと、トビーは兄と義姉に、エミリアが王都で学ぶことを勧めた。二人はよく考え、エミリアを入学させることにした。
「私は行きたくないのに」
「エミリア。外の世界を知ることはいいことだよ」
本当は、ずっとこの小さな町でトビーの隣で笑っていてほしかったが、彼はエミリアに外に出て、他の男のことも見て欲しかった。街にいるのはザカリーを始め、手荒なものが多い。その点王都には様々なタイプの男がいる。
自身ばかりを見てもらうのは嬉しかったが、後悔してほしくなくて、トビーは自身の気持ち押し殺して、エミリアを見送った。
「ふん。私は知ってるもん。トビー叔父さんが何を考えているか」
「それならよかった。楽しんでね」
「八年よ。十六歳になったら、トビー叔父さんに結婚申し込むんだから!」
「はいはい」
嬉しく思いながらもいつものようにを、トビーはエミリアを軽くあしらった。
エミリアは王都へ行き、八年間戻ってこなかった。時折、ザカリーやネヴィアは王都へ行き彼女と会っていた。トビーも誘われたが、王都に行くことはなかった。
八年後、エミリアは卒業した。
エミリアは美人で、とても優秀な魔法使いとして学園で有名になっていた。王子とも交際しているという噂が入るくらい。
トビーの顔は穏やかでハンサムの部類に入る。なので彼にもいつくか結婚話があった。しかし、彼は全部断った。
(僕は、情けないことに、あの子を忘れられない)
十年前に会ったエミリアの成長した姿が、トビーの脳裏にこびり付いて、色褪せなかった。
(変態だな。僕は)
「トビー叔父さん!」
随分久しぶりにそう呼ばれ、彼は振り向いた。
声をかけたのは、金髪に青い瞳の女性だった。
「エ、エミリア?」
「トビー叔父さん、よくわかったわね!そうだ。会ったことあったんだ」
エミリアはすっかり大人の女性になっていて、クスクスを軽い笑い声を立てた。
十年前に、聞けなかったエミリアの大人の声だった。
「どうしたの?卒業して、えっと王子と結婚するんじゃなかったっけ?」
「トビー叔父さんまで、そんなこと。私許さないから!」
そう言ってエミリアは、トビーに駆け寄りぎゅっと抱きつく。
「ちょ、ちょっと」
「トビー叔父さん、結婚して。私の気持ちは変わらなかった。王都に行っても。全然会いにきてくれなくて寂しかった」
エミリアはぐいぐいと頭をトビーの胸になすりつける。
「君は、本当に僕のことが好きなんだ」
「うん。いつも言っていたでしょ」
「なら、もう遠慮しない」
「トビー叔父さん?」
「叔父さんはなしだ。トビーって呼んで、エミリア」
トビーはエミリアの背中に手を回すと、その唇を奪う。
「こらああ!」
すると怒声が聞こえ、ザカリーが走ってきた。
「うわ。兄さんだ。エミリア。逃げよう」
今度は逃さないとエミリアの手を握り、彼は駆け出す。
エミリアは遅れはとれないとばかり、トビーの横で一緒に走った。
エミリアの長い初恋はこうして叶い、見事にトビー叔父さんと結婚することになりました。
めでたし、めでたし。
魔法の飴玉で大人になったら、叔父さんの様子がおかしい。 ありま氷炎 @arimahien
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