第5話 エミリア、森へ行く
エミリアの服選びは簡単に済んだ。しかし街の人がジロジロをエミリアを見る。なので、トビーは大きくなったエミリアを、義姉(あね)の妹ということにした。
「さあ、戻ろうか」
トビーは店の外で待ち、エミリアとルーシーが店の中で話して服を選んでいった。こんなことであればついてこなければよかったと後悔しつつ、買い物が終わったことに安堵した。
トビーの服ではなく、購入した服をきたエミリアは可愛かった。義姉が綺麗系なら、エミリアは可愛い系だった。
「トビー、何か言うことはないのか?」
「ん?」
ルーシーが肘で横腹を突(つつ)く。
「痛いんだけど」
「だからあんたはさあ、恋人もいないんだよ。さ、エリーちゃん。あんな人ほっといて行こうか?」
一緒に買い物しているうちに随分、ルーシーに懐いたエミリアは、ぐいぐいと彼女に引っ張られるように歩かされているのに、不服そうではなくむしろ楽しそうだった。
(なんだよ。いったい。本当、子供ってわからない)
「あ、あれ食べたいの?」
トビーの前を歩いていたルーシーとエミリアが立ち止まり、何やら見ている。
「トビー。エリーちゃんがあれを食べたいみたいだけど」
ルーシーに言われ、視線の先を見るとりんご飴が売っていた。
(こういうところは一緒だな)
りんご飴は小さいエミリアも好んで食べていたものだった。
「買おうかな。ルーシーも食べる?」
「私はいらない」
「そうか」
トビーは店に行き、りんご飴を購入する。
そしてエミリアに渡すと極上の笑顔を浮かべ、トビーは惚けてしまった。
(トビー、起きろ。エミリアは六歳だぞ。変態になりたいのか)
またしても理性がトビーに語りかけ、彼は我を取り戻す。
(危ない。不埒な気持ちを一瞬でも抱いたとバレたら、兄さんに殺される)
ぶるっと身震いをして、トビーはエミリアとルーシーの後を追って歩き始めた。
☆
「兄さんに知らせるかな。どうしようかな。知らせたほうがいいよね」
「当然だろう」
店に戻り、トビーは悩ましげに羽ペンをくるくると手の指で回して遊んでいた。
「黙っていたら、もっと怒ると思う。とりあえず病気とかなんとか知らせたら?」
「そうだよね。うん」
自分と結婚するために魔女の飴玉を食べたなどと知れば、ザカリーは怒り狂ってトビーを半殺しにするだろう。それがわかるので、トビーは病気になったので、できるだけ早く戻ってきて欲しいとだけ書いた。
(ああ、でも今戻ってきたら、半殺し確定だよね。かといって、真実の愛のキス。無理。無理)
トビーは手紙を封筒にいれると隣町の町長宛に速達で送った。この国では手紙を送る方法は二つある。荷馬車と馬配達だ。荷馬車だと二日。馬配達は配達人が馬に乗って届けるもので、数時間で届く。料金は三倍だった。この際料金に構っていられず、トビーは配達人に手紙を渡した。
翌日になっても、返事が来なかった。突然戻ってくるだろうなと予想したトビーに、悪い知らせが飛び込んできた。
魔物は倒したが、ザカリーもネヴィアともに重傷で、町で手当をうけているということだった。
それをエミリアに伝えると、すぐに家を出ようとしたので、トビーは慌てて止める。今は待つしかないと伝えたが、エミリアは不服そうだった。
☆
(もう、大人なんだから!)
エミリアは夜、家を抜け出した。
彼女は六歳だが、冒険者である両親に武術を教えてもらったり、魔法を教えてもらい、新米冒険者と同じくらいの力量はあった。
使える魔法は炎と水の初級魔法、回復魔法は中級まで使用可能だった。
(お父さん、お母さん。会いたい)
エミリアは夜の街を走り抜け、森に出た。
夜の森は昼の森と全く違う。
夜活動する魔物のほうが力の強いものが多い。
普段は森の奥部にいるのに、夜になると表に出てくるのだ。
だから夜は絶対に森に行ってはいけないと子供の頃から言われていた。
エミリアは油断していた。
自身が大人の体を手に入れたことで、自信過剰になっていたかもしれない。
大きな熊の魔物がエミリアの前に立ち塞がった。
炎の初歩魔法を放とうとして、森にいることに気が付き、止める。それが隙を与え、熊の餌食となる。
腕を振り下ろされ、エミリアは咄嗟に身を庇ったため吹き飛ばれるだけで済んだ。しかし、熊の魔物は倒れたエミリアにじりじりと近づいてきた。
「エミリア!」
耳に馴染んだ声が聞こえ、彼女は泣きそうになった。
それはトビーだった。
普段は薬師だが、彼は以前はザカリーと一緒に冒険をしていたくらいだ。エミリアよりもよっぽど腕が立った。
背後から熊の魔物を斬りつけ、怒った熊は反転し、攻撃を仕掛ける。
トビーは風魔法を使い、熊を切り裂く。
咆哮を上げて熊は息絶えた。
「エミリア、大丈夫?」
トビーは彼女を叱るのではなく、抱き締めた。
「震えてる。怖かっただろう」
トビーは頭を撫でた後、その背中を優しく撫でる。
「ごめん。君が心配していることは知っていたのに。最初から僕が連れて行けばよかったんだ」
彼が謝り、エミリアは首を横にぶんぶんと振る。
「エミリア、首が壊れちゃうよ。立てる?」
抱きしめていた手を離し、トビーが先に立ち上がる。それから、彼女に手を差し出す。
まるでエミリアは自分がお姫様になったような気分がして、気分が高揚してしまった。
エミリアはトビーの手を掴むと、引き寄せた。彼は油断していて少しバランスが崩れる。それを狙って、エミリアがトビーに口付けた。
すると、エミリアが光に包まれる。光が止み、再びそこに現れたのは小さいエミリアだった。
「エミリア!元に戻った!」
「本当!」
エミリアは勢いよくトビーに抱きつく。六歳児にもどったエミリアの体を支えるのは容易で抱きしめたが、はらりと彼女が着ていた服が解けた。
「おい、これはどういうことだ!トビーこの野郎!」
タイミングよく、いや悪く、なぜかそこに重傷のはずのザカリーがいて、トビーは半殺しにあった。
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