第4話 エミリア、魔女に会う
「悪いができないねぇ。その子だって知っていて飴玉を食べたはずだよ」
魔女の家をエミリアは知っており、トビーは彼女に連れて行ってもらう。
今日は薬屋を休み、ルーシー宛に張り紙もしてきた。トビーは彼女に成長したエミリアを会わせたくなかっため、早朝に家を出て魔女の家を訪れた。
「こんな早くから。なんだね。まあ、わかるけど」
不機嫌そうに扉を開けた魔女の声は、小さいエミリアのもので、聞かなくても今回の事が魔女の仕業だとわかった。
「さあ、入りな」
エミリアは警戒心なく、トビーは恐る恐る家の中に入った。
薬屋であるトビーの店もかなり匂いがきつい。しかし魔女の家はそれを上回るものだった。
トビーは顔を顰めながら、勧められた椅子に座る。
エミリアは魔女を全面に信頼しているようで、迷いなく椅子に座った。
「魔法を解いてほしいっていうんだろ?」
「はい。その通りです。お願いします!」
さすが魔女、トビーは感心しつつ頭を下げる。
「できないねぇ。これは契約だ。エミリアは私に声を与え、私は彼女を大人へ成長させた。彼女にも声を失うことは事前に伝えている」
「でも、彼女は六歳ですよ。そんな騙すような真似を」
それを聞いてエミリアは不服そうに顔を膨らませたので、魔女が苦笑しながら紙と羽ペンを出す。魔女の羽ペンはどういう仕組みになっているのか、インクなしでも書けるようだった。
『エミリア もうおとな こどもじゃない 声、うしなう しってる』
「ほら、エミリアだってわかってるじゃないか」
「いや、絶対にあんまりわかっていないと思います」
『わかってる エミリア トビーおじさんと けっこんしたい だから大きくなった』
「愛されてるねぇ。トビー」
エミリアが書いた言葉を読んで、魔女はニヤリと笑う。
「ともかく、こういうのはダメです。元に戻してください。それか魔法を解く方法を教えてください」
「元に戻す方法はないが、魔法を解く方法はある」
「それ一緒じゃないですか?」
「いや、元に戻すってことは契約を破るってことだ。それはできない。しかし、かけた魔法を解く方法なら教えられる」
「では教えてください」
「いいだろう。真実の愛のキスだ。エミリアに真実の愛のキスをしてやれば、魔法は解ける」
「……真実の愛のキス。それなら、兄か義姉(ねえ)さんにしてもらえれば解けますね」
「無理だ。この愛とは、恋愛の愛で、肉親の愛ではない」
「はあ?エミリアは六歳ですよ?恋愛なんてまだ早すぎますよ!」
「今は大人だろ。エミリアは」
「ダメです。絶対。他の人がキスなんて、兄が怒り狂って世界を滅ぼすかもしれない」
「大きく言うね。まあ、あいつが暴れたら面倒なことにはなりそうだけど」
「他に本当に魔法を解く方法はないんですか?」
「ない」
魔女の話はそれだけで、おかえりとばかり強制的に家を追い出されてしまった。
「ああ、どうしたらいいんだよ」
トビーは途方にくれるが、エミリアはニコニコと楽しそうに微笑んでる。
「エミリア。どうしてこんなことを。君はまだ六歳だ。結婚なんてずっと先だよね?」
トビーがそう言うと、エミリアはズボンのポケットから、紙と羽ペンを取り出し書く。どうやらどさくさに紛れて紙と羽ペンを魔女から拝借したようだ。追いかけこないことから、エミリアがもらっていいものらしかった。
『トビーおじさん まてない エミリア 大きくなるまで まてない』
「待てないっていうか、エミリア」
「おー!トビーに、えっとどこのお嬢さん?」
トボトボと街を歩いていると、めざとくルーシーに捕まってしまった。
すると急にエミリアがトビーの腕に自分の腕を絡ませてくっついてくる。
胸のやわらかい感触を感じて、トビーは動揺してしまう。
「おやおや、お嬢さん。積極的だね。私はトビーの雇われ店員だよ。なんでもないから警戒しないで。あれ。この子、誰かに似てる。エミリア、エミリアちゃん?!」
「ルーシー。ちょっと相談があるんだよ。店にきて」
「あ、うん」
真っ赤だったトビーの顔は今度は急に青ざめていた。
様子があまりにもおかしいのでルーシーは頷き、店で話を聞くことになった。
☆
「エミリアちゃん、やるね〜」
「やるねってどういう意味?僕は非常に困ってるんだ。エミリアが一番困ってるかもしれないけど」
「どうかな。全然困ってる様子はないけど」
トビーの隣に座り、ぴたっとくっつくエミリアを眺めながら、ルーシーはぼやく。
「困ってる。困ってるんだ。とりあえずまずはエミリアの服を買うのを手伝ってほしい。なんていうか、僕の服しかないから」
「あ、そうだね。うん。エミリアちゃん、一緒に出かけようか」
ルーシーが誘うとエミリアは警戒心たっぷりに、まるで威嚇するように構える。
「あらら、嫌われちゃったね。どうせ今日は休みだろ。トビーも一緒に行こう」
「う、ああ」
トビーが行くと決まれば、エミリアは警戒を解き、嬉しそうに微笑んだ。
「愛されてるねぇ」
「うるさい。ルーシー」
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