第3話 エミリア、少しだけ誘惑する

「本当に、君、エミリアなの?」


 トビーは半信半疑で尋ねる。

 すると彼女に頷き、見てみてとばかり微笑む。

 動作は子供のそれだった。


「まいった、嘘だろう」


 金色の髪に青い瞳。髪は母譲り、瞳は父譲り。顔立ちもよく見ればエミリアによく似ている。

 エミリアの部屋に残された服の布片は、彼女の着ている半分破れたものと布地が一緒だった。


「ああ、どうしたらいいんだ。魔女の飴玉。そういえば義姉(ねえ)さんの知り合いに魔女が。そうだ。明日訪ねてみよう」


 頭がズキズキと痛み、トビーはこのまま逃げ出したくなった。

 しかしエミリアが無垢な瞳でトビーを見ており、逃げたらいけないと心を決める。


「え、エミリア。僕の服をとりあえず着ようか。それじゃあんまり」


 エミリアは十六歳くらいの女性の姿をしており、胸あたりも大変立派に成長していた。

 兄の怒声が聞こえた気がして、トビーは慌てて視線を胸から外す。


「えっとこれでいいかな」


 下着までは気にしていられないので、上着とズボンを出してから、エミリアに渡した。


「えっと僕が部屋を出るから、着替えてもらえる?」


 そう言うと、エミリアは不思議そうな顔をした。


「一人でできるよね?」


 そう問うとエミリアは不安そうな顔をした。


「いや、できる。できるから」


 トビーはエミリアに服を渡すと逃げるように部屋を出る。


「さすがに無理だから」


 扉を閉めて、彼はうめくようにつぶやいた。


 ☆


 トビーが出ていき、エミリアはまずは破けた服を脱ぎ捨てた。

 胸が大きく膨らんでいて不思議だった。


(ああ、お母さんと一緒か。お父さん、お母さんが嫌がるのに嬉しそうにおっぱい触っていたけど、トビー叔父さんも触らせてあげたら喜ぶかな)


 エミリアはそんな恐ろしいことを考えながら、トビーに渡された服に袖を通す。

 トビーは父ザカリーに比べたら小さいが、男性としては平均体型。なので、エミリアが彼の上着を着るとかなり大きめだった。襟ぐりも大きく開いて、胸の谷間がよく見える。

 パンツは破けていなくて、トビーのズボンを履いてみる。これも大きかったが、紐がついており、それを絞って前で結ぶ。

 ズボンの裾をどうしていいかわからず、引きずりながら彼女は扉まで進み、開けた。

 扉のすぐ近くに立っていたらしい、トビーは彼女の姿を見ると顔を真っ赤に赤らめた。


「まずい。服が大きすぎた。どうしたら」


 トビーは成長したエミリアよりもまだ背が高い。だから見ると、大きく開いた襟ぐりから胸が見えてしまい、女性のそういう部分を見慣れていない彼は狼狽えるしか無かった。

 しかしエミリアはわかっておらず、腕を引いてぐいぐいっと近づいてくる。


「ちょっと、離れて」


 胸が腕にあたり、限界まできたトビーは彼女の肩を掴み、物理的に距離を作る。すると不安そうな表情になり、泣きそうな顔をエミリアはした。


「ごめん、ごめん。不安にさせて。えっと大きくなったエミリアに僕はびっくりしてるんだ。だからちょっと離れてもらってもいい」


 そう言うとエミリアはうなづいた。


「あ、裾が長いね。ちょっと曲げようか」


 距離をとって、トビーは少し冷静になり、彼女が履いているズボンの丈がかなり長いことに気がついた。かがんで、裾を曲げる。


「ほら、できたよ」


 ふと顔をあげると、エミリアがじっとトビーを見ており、その可愛らしさに一瞬目を奪われた。


(トビー。だめだぞ。この子はエミリアだ。六歳児だぞ。変態になりたいか)


 しかし理性がそう彼に問いかけ、我に返った。


「さあ、今日は寝て。明日魔女のところへ一緒に行こう」


 トビーは立ち上がり、エミリアにそう言う。すると彼女は顔を曇らせ、首を横に振った。


 「どうしたの?なんかまずいことがあるの?」


 口が聞けないということは魔女となんらかの取引をした可能性があった。詳細を聞いた方がいいかもしれないとトビーは彼女にまた文字を書いてもらうことにした。


『トビーおじさんと けっこん エミリアと だから、大きくなった まじょ 声あげた』


「エミリア、なんてこと」


 書かれた言葉にトビーは頭を抱えた。


『エミリア 嬉しい トビーおじさん けっこんできる』

「エミリア、だから違うんだって」


 トビーはなんとも言われない気持ちになった。

 そしてどうにか魔女にこの魔法を解いてもらおうと決意した。

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