第2話 サイドB〜リョウマと宮田先輩〜

「ブエックションッッ!」


「またですか、森山さん」


 誰かが噂している、そう思ったが宮田先輩は仕事中に冗談は通じない人なので素直に謝る。


「すみません、花粉症なので」


「いっそ、異動願い出す?」


「い、いえ、それは……細菌の研究が好きだから」


 先輩のことが好きだからとはまだ言えない。ああ、なんとか言えないものか。


「ならば花粉症の薬を変えてもらうとか。あ、レーザーで焼く治療法あると聞いたことあるわ」


「それは僕も医者で尋ねたのですが、あれは息ができないくらい鼻詰まりがひどい患者向けらしいです」


「あら、そうなの。舌下免疫療法は?」


「ああ、五年かかるとか、始めるには夏からと言いますね。僕はスギ以外にも他のアレルギーあるし」


 僕は彼女の意見を否定する訳ではないが、申し訳ない気持ちになる。やはり、彼女はシュンとしてしまった。


「いろいろあるのね。でも、一番ひどいスギ花粉だけでも舌下免疫療法したら?」


「そうですね」


「それによく見ると目が真っ赤ね。目薬使うのはもちろん大事だけど、花粉症用のメガネでもかけたら?」


 先輩が僕の目を見ながら心配気に言う。ああっ、そんな僕の目を見つめないでください。目的が違うのはわかっていてもドキドキが止まらなくなります。


「確かに普通のメガネでも花粉が防げると言いますし、メガネでも作ってみるかな」


「森山君ならメガネでも似合うわよ」


 はうっ、また一撃をくらってしまった。メガネが似合う男子、よし! メガネ男子を目指す!


 〜〜〜


「それて、森山先輩。今度はメガネを手作りしたいって何を言ってるのですか?」


「いやあ、花粉症用の伊達メガネでもいいから作ってみたいのだよ」


「素直に買えばいいのに、なんで手作りしようとするのですか。なんでも1から手作りする某番組じゃないんですよ?」


「確かにそうなんだけど」


「それに今どきガラスのレンズ? 手入れは楽でしょうけど何かに当たったら危険ですよ。それをクリアしてもフレームはどうやって作るのですか?」


 後輩の一言が次々と刺さってくる。確かにこのまま手作りメガネフレームなんてワイヤー使って。


「ハッキリ言います。先輩の構想で手作りのメガネはダサいです。某番組でやるとしても職人の下で指導しながら作るでしょう。ここは実験するところであって工場ではありません」


 とどめの正論を出された僕は二度目の挫折をしたのであった。


 〜〜〜〜〜


『と、言う訳で手作りメガネは諦めました。似合うメガネは素直に店員さんに聞けばいいのでしょうか。兄さん、僕はわからなくなってきました』


 僕が四十肩マッサージの刑を受けている途中に受信したリョウマからのメッセージをユウさんへ読み上げると、これまた珍しくユウさんがため息をついた。


「もはや何がしたいのかわからんな」


「あいつ、頭はいいけどそういう意味でアホなんだよなあ」


「って、そこで柚穂ちゃんを誘えばいいじゃん『似合うメガネが分からないので一緒に見繕ってください』って」


「あ、そうか。それを送るよ」


「道のりは遠そうだなあ」


 僕たちは再び揃ってため息をつくのであった。

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【KAC8】虫メガネにまつわる思い出及びメガネから進む恋バナ 達見ゆう @tatsumi-12

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