【KAC8】虫メガネにまつわる思い出及びメガネから進む恋バナ
達見ゆう
第1話 サイドA〜ユウとリョウタ〜
「はあー、やはりユークレースの青い世界はいいねえ。十五万円というお値段もより見える世界を豪勢にしている」
ユウさんは僕が約束して買って上げた青いコレクター石をルーペにかざしていた。
「虫メガネでもいいのじゃない?」
すっからかんになった僕が投げやり気味に言うと、彼女はチッチッチと指を振って「わかってないな」という顔をした。
「石沼はちゃんとした倍率のルーペで中のインクルージョンやクラックを楽しむものだ。虫メガネの倍率では足りない」
よくわからないが、そういうものなのか。一般的には検品で不合格やら格安コーナーに回されそうなクォリティでも石沼はにはありがたいようだ。
「インクルージョンやクラックねえ。ジュエリーだと弾かれそうなのに」
「捨てる神あれば拾う神ありだ」
「いや、それはマニアックというのでは」
「なんか言った? リョウタ君。マッサージ受けたい?」
「い、いえ、なんでもございません。肩も大丈夫です」
とびっきりの笑顔は危ない、危ない。四十肩マッサージか足裏マッサージの刑を受けるところであった。
「虫メガネかあ、子供の頃はいろいろ拡大するのが楽しかったなあ。虫とか花とか」
「うむ、石ころにも個性があるのは虫メガネでもわかったな」
「あ、石好きはその頃からなのね。地学者になれば良かったのに」
「バックパッカーしていて無職のブランクでも就職できるのが公務員くらいしかないからな」
「確かに。そういえば、子供の頃は十倍くらいのミニ顕微鏡持ってたなあ。あれも虫メガネと違ってて弟と取り合いになるほど面白かった。今は老眼なのか仕事用に遠近両用メガネを買うか迷うお年頃だけど」
「相変わらず自虐的だな、リョウタ」
「まあ、それでリョウマは観察から科学の道にハマって研究者になったのだけど」
「へえ。兄弟でも進む道が違うものだな」
いや、僕の場合はユウさんが県庁に就職したと聞いて転職したのだ。一応内緒にしているが、いつかボツにした小説でバレてしまった気もするあのボツ小説自体が黒歴史なので思い出さないようにする。
「ところで、リョウマ君は相変わらず恋の熱で暴走してない?」
ささくれ菌の件以来、何かと弟の話題となる。恋バナ好きなのはわかるが、あいつがうまくいくのかどうか僕にもわからない。
「こないだの手作りルビー未遂もあるからねえ。どうなんだろ?」
「彼にはストッパーが必要だね。柚穂ちゃんは常識人だからなれそうだけど」
「僕がユウさんのストッパーなようにね」
「リョウタくぅん、やはり肩が凝っているねぇ」
「うぎゃあぁ!」
雉も鳴かずば撃たれまい、そんな言葉がよぎったが遅かった。全てはリョウマのせいだ。
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