第二章:辿り着くのは無人島

第13話:転生邪神、船旅を楽しむ?

サイン本を手に入れた俺は、特にもう用事が残っていなかったので王都でグレアが用意していたという船に乗り彼女と一緒に聖都に向けて出港した。

 スタンの奴も一緒に来ようとしたが流石に騎士団長の仕事があり、なんか血涙を流しながらも別れるという事件もありはしたが、船旅は順調――ではなかった。


「うぷぇ――酔った。凄い酔ってるぞ俺」


 船で借りた一室で寝転がりながらも吐き気を我慢する俺。

 最初は調子が良かったが、突如襲来した嵐のせいで船がアホみたいに揺れてしまい、馬鹿ほど俺は船酔いしていた。

 立つのもやっとで横になっても普通にやばいこの状況……吐くのだけは師匠の尊厳的にアウトなので頑張って我慢しているものの多分これ以上揺れが加速すると本当に冗談抜きレベルで限界が近い。それに何か魔法を失敗したかのような気持ち悪さもある。揺れる視界に悲鳴を上げる三半規管――最早悟を開けそうな状況で唸り、邪神生至上一番の危機に震えていると誰かが部屋に入ってきた。

 

「師匠大丈夫?」

「大丈夫……ではないな」

「師匠がこんなに揺れに弱いとは思わなかったな」

「……俺も驚いてるぞ、こんなに酔うとは思ってなかったし」


 入ってきたのは一番弟子のグレア。

 冷たいタオルを持ってきたくれた彼女は看病してくれるようで倒れる俺に膝枕してくれる。


「ねぇ師匠懐かしいね」

「何がだ?」

「状況は逆だけどこうやって一緒に過ごすの」

「……んと、そうだっけ?」


 頭があまり回らない中で話を振られて一瞬言いたいことが分からなかったが、心当たりはあった。


「あーお前が無茶したときか」

「その覚え方は酷くないかな?」

「いやだって、グレアが倒れるなんて無茶したとき以外無いだろ」

「それは……そうだけど」


 グレアは弟子の中でも一番の頑張り屋、弟子の誰かに勝負で負けたとき彼女は一人で無茶する癖があった。

 本来なら師匠として止めなければいけないはずだが、少しでも強くなろうと頑張る彼女を止めたくなくて、頑張った後で膝枕して休ませるという事をしていた。


「というかさ、出来る程デカくなったんだなグレア」

「……そりゃあね、私だって成長してるんだよ?」

「それは知ってる――はは、旅に出る前は小さかったのにな」

「成長期に三年も旅すればねー」

「今十八だっけお前?」

「うん、十八歳だよ!」


 グレアと出会ったのが彼女が六歳の頃だから……出会って十二年かぁ。

 邪神として生きた中で十二年というのは一瞬だ。だけど、彼女と出会って弟子を沢山取ったこの十二年間は――何故か、本当に長くとても早く感じた。

 今まで生きてきた中でとても充実していて、一瞬で過ぎるような日々。

 

「十二年かぁ……はやいな、ほんと」

「そうだね師匠、一瞬だった気がする」

「そうだグレア。旅であった事聞かせてくれよ、そういえば聞いてなかっただろ?」

「聞きたいの? ――どうしよっかな」

「嫌なら良いぞ? 俺も無理に聞き出す気ないしな」


 気のせいかも知れないが、一瞬だけグレアの顔が曇った気がした。

 だからすぐに訂正したのだけど。


「いいよ、話させて。でも何処から話そっかな?」

「なんでもいいぞ、せっかくの弟子の冒険だゆっくり聞かせてくれ」


――――――

――――

――


「でね! 立ち寄った街で占い師の水晶探すことになったんだ! ――って師匠?」

「すぅー……や、やめろファフ、それは俺のけーき」


 最初の旅立ってからの最初の冒険を話しながら少しの山場の部分を話していると寝息と寝言が聞こえてきた。

 どうやら船酔いで疲れてしまった師匠は寝てしまったらしく、何か楽しい夢を見てるみたい。


「……ふふ、お休み師匠。いい夢みてね」

「待て、なんで――お前が、やめろ俺にクラゲを近づける……な」

「本当に何の夢を見てるんだろ……」


 あまりにも変な寝言にツッコみそうになったけど、寝るのを邪魔するのも嫌だし私は船のデッキに戻ることにした。

 少し落ち着いたとは言えまだ嵐は来てるし、その嵐のせいで魔物が来るかも知れないから警戒しておかないといけないんだ。


「にしても変な嵐だなー。魔力感じるし、何なんだろ」


 嵐というのは本来自然現象であり、魔力を発することなどない。

 なのに少し気持ち悪い魔力を放っているこれはどう考えても普通ではない。

 何かが無理矢理干渉ているような、無理やり支配しているようなそんな気配――そんな嫌な嵐の中で索敵していると巨大な竜巻が迫っている事に気がついた。


「ッ――なんで急に!?」


 あまりにも急に現れたその竜巻。 

 すぐにルクスを抜剣し消し去ろうとしたが、何故かルクスは呼べなかった。


「まずっ」

 

 急接近してくる巨大な竜巻、それは船を飲み込んだ。

 崩れる船飛ばされる乗組員。寝てる師匠を守ろうと動こうとしたけど、それはもう遅く――。


「ししょ――」


 そして竜巻の中、私は意識がかき消えそうになる中で何か巨大な影を見る。

 それは漆黒の体躯の何か。巨大な顎を持っているその何かは――真っ赤な目を何処かに向けている。

 最後に遠吠えを聞き、私の意識は何処かへ行った。

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ゲームの裏ボスに転生した俺、勇者を弟子にする~俺の討伐に燃える弟子が、懐いてきて辛い件~ 鬼怒藍落 @tawasigurimu

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