祭りの終わりに

チャーハン@カクヨムコン参加モード

祭りの終わりに

 夕暮れどきの通りは、賑やかな祭り一色に染まっている。


 ぼんやりと橙色に光る提灯が暗い石道を優しく照らしていた。両脇には屋台が並んでおり、その中にあるたこ焼き屋や焼きそば屋からは香ばしい香りがあがる。笑みを浮かべた子供たちは各々はしゃぎながら祭りを謳歌している。そんな子供たちを大人たちは優しく微笑みながら見守っていた。


 世界は今日もゆっくりと楽しげに、笑顔を生み出している。そんなことを私は思いながら足をぶらぶらと揺らしている。私が体を動かすたび、二階ほどの高さがある木はゆらゆら揺れる。さらさらと音を鳴らしながら落ちていく葉を見つめていると何故か気持ちが落ち着いてきた。


(今日でお祭りも終わるんだよなぁ)


 私はそう思いながら、ゆらゆら揺れて落ちる葉っぱを眺める。もし、植物に命があったら彼らはどうなるのだろうか。栄養が行き届かなくなった瞬間に生物で言うところの死を経験するのだろうか。それとも、彼らには意識なんてなくて機械のスイッチが切れるように意識がなくなるのだろうか。


(なんでこんなこと考えちゃうんだろう)


 物思いにふけりながらふとそんなことを思う。世界は私の意志とは相反し、賑やかな喧騒を立て続けている。私だけだ、あの集団には入れていないのは。


 地面を眺めながらぼ――っと考えていると、小鳥が一羽やってきた。私が座っている枝の隣に座り、せわしなく体を動かしている。


(鳥はいいよな、色眼鏡なしで生きていられて)


 私は毛繕いしている小鳥を見つめながらため息をつく。満天の夜空に瞬く星々が、私の瞳を輝かせている。目を瞑りたくなるほど強い彼らを見るたびに、浅ましい私の心について考えてしまう。


 人生で一番楽しかったことは何だろうか。不意によぎった言葉から過去の記憶を一枚一枚辿っていく。捲れる音を聞きながら探す度、泡沫に溶けた心が沸々と湧き上がってきた。


 もう、あの頃の幸せな人生には戻れない。わかっているのだ。

 私にはもう、人並みの人生は歩めないと。


 だからこそ――


(次は、人並みの人生を歩みたい)


 そう思いながら、私は今日も一日を終える。

 永遠に続くような平坦な日々を、祭囃子の音と共に。

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