KAC20248特別なめがね
綾野祐介
KAC20248特別なめがね
係員がやって来た。棺を焼却炉に入れるためだ。
「何やってんの」
「いや、この中の人に言われて来たんです」
「そんな訳無いだろ」
隆志の顔は死人の顔だった。エリカは怖くて触れていない。
「棺桶に閉じ込められているから助けに来てくれって電話を貰ったんです。確認してもらえませんか?」
エリカは深雪のことを知れば一旦は焼却を止めてくれると思った。
「この蓋はあんたが開けたのか、無茶するなぁ」
そう言いながら係員は棺桶の中を覗き込む。
「特に怪しいところはないな。ちゃんと死んでるよ」
「えっ?」
隆志の下になっている深雪が見つかるはずだ。
「下に居るでしょ?」
「下?」
係員はもう一度覗き込む。
「揶揄ってんのか?何も居ないじゃないか」
慌ててエリカも覗き込んだ。隆志の下には何も居ない。
「おかしいな、確かに見たんだけど」
「見たって何を?」
「深雪が隆志の下に居たのよ」
「誰だって?」
「隆志と付き合っていた深雪が隆志の下に居たのよ、さっき確かに見たんだから」
「華奢で綺麗な子か?めがねも似合ってた」
「めがね?そうね、多分」
深雪は普段はコンタクトだが時折めがねを掛ける時がある。『私がめがねを掛ける時は特別な時よ』と言っていたが、どう特別なのかは教えてくれなかった。
「俺にこの棺を燃やすように頼んだ子かもな」
若い女が係員に金を渡して焼却してもらうよう頼んでいったらしい。ちゃんと手続きをしていない焼却遺体はたまに運ばれてくる。ほとんどが反社案件だが、その時一人で担当だったら結構な小遣い稼ぎになるのだ。
「自分も一緒に燃やしてもらうつもりだったのかしら」
「そんなことは知らないよ。でもここに運ばれてきたときにはもう蓋は打ち付けられていたよ」
その時にはまだ深雪は中に入っていなかった?じゃあ今深雪はどこに?
「焼却するから離れて」
係員は隆志の入った棺を焼却場の中に入れスイッチを入れた。
「これでいつまでも一緒ね」
確かに中から深雪の声が聞こえた。
KAC20248特別なめがね 綾野祐介 @yusuke_ayano
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