第24話 聖奈と蓮の恋人チャンネル

「いや、その……一緒にダンジョン配信しようって誘われて」


「……出会ってまだ三日そこらのはずなんですが、ずいぶんと仲が進んでますね」


 案内人は半ば呆れ顔だ。聖奈に見せてもらっているコメント欄も、


〈なんかいきなり仲良くなりすぎだよな〉

〈我々の知らないあいだにいったいなにが……!?〉

〈攻略速すぎて草も生えない〉

〈さすがSランク、男の攻略も神速だな!〉

〈これランク関係ある?〉


 とだいぶ不思議そうだ。


「いやほら、翌日には俺の家で朝食作ってて、みんなに受け入れられてたから……」


〈は?〉

〈は?〉

〈え、まってどういうこと?〉

〈ちょっとなに言ってるのかわからないですね……〉


「えーと……」


 蓮は説明した。天空世界とのいざこざを起こした翌日、朝起きてリビングに行ったらなぜか聖奈がいて、母親と一緒に朝食を作っていたのである。


 なかなかハードな一日だったため、蓮は家に帰るとさっさと部屋で休んだ。肉体的な疲労はなかったものの、精神的には色々ありすぎて休息を欲していたのだ。


 で、目が覚めたとき、ふと昨日のことは夢だったんではないか――そんなことを考えながら自室を出てリビングに行くと、


「お、おはよう、蓮くん……」


 はにかんだ笑みを浮かべるエプロン姿の聖奈がいたのだ。しかもどういうわけか母親と親しげで、父親や妹にまで受け入れられていた。


「こんなにかわいい彼女ができたなんてなぁ」


 と父親はいたく感動した様子だったし、


「お兄ちゃんにはちょっともったいなくない?」


 と妹もにやにや笑っているし、


「蓮、あんたフラレないようにがんばんなさいよ」


 と母親から忠告をもらう始末だった。


 どういうこと? と蓮が訊けば、なんでも昨日、夕飯の買い物に出た母親が聖奈と会って挨拶し、会話がたいそう弾んだそうな。


 そして朝食を作ってあげたいけれど、さすがに朝っぱらからうかがうのは非常識だろうと遠慮する聖奈に、母親が「別に気にせず来ちゃっていいわよ」とあっさり許可。


 しかも帰り道でたまたま父親や妹とも遭遇して意気投合、初顔合わせを済ませたという。


 聖奈は朝食を作るのと同時にお弁当も作って、そのあと町を案内するついでにとデートに誘われ、流されるままに一日ずっと一緒にいたのだった。


「さすがに夜は帰ったけど、次の日にはこうしてダンジョン配信のお誘いに――」


〈ストーカーじゃねぇか!〉

〈認識改変系のホラーかなにか?〉

〈つーかなんで蓮さんも普通に受け入れてるんですかね……?〉


 コメント欄がめちゃくちゃざわついていた。


「あれ? やっぱりおかしいのか? いやまぁ俺もちょっと変だなぁとは思ったんだけど、ほら……同じ日本って言ってもパラレルワールドだし、こういうのが普通なのかと」


「そうだよ、蓮くん!」


 聖奈が焦った様子で言った。


「こっちの世界の女の子はみんな積極的だから! 気になる男の子の家にはうっかり突撃して、先に家族と仲良くなっちゃってたりするの!」


〈騙されてるよ蓮さん!〉

〈おまわりさーん!〉

〈風評被害がひどすぎる……〉

〈やりたい放題すぎるだろ、いくらなんでも〉

〈我々の世界でも立派なストーカーです〉

〈というか蓮さん的にはいいのか?〉


「強引だけど悪い子じゃないし、かわいいから別にいいかなって思っちゃって……」


「そうだよ蓮くん! 確かにちょっと勇み足だったかもしれないけど、そこも愛嬌ってことで! いいよね、ねっ?」


〈さすが蓮さん、ストーカーも受け入れるなんて器の大きいお方……〉

〈その器大きすぎない? ちょっと小さくしてもいいのよ?〉

〈つーか聖奈の攻め方がおかしいだろ、なんで速攻で自宅凸して外堀埋めてる挙げ句に朝食まで作ってんだよ……〉

〈絶対に逃さないという鉄の意志を感じる〉


「まぁお二人が納得してるならいいんじゃないですかね」


 案内人が呆れた様子で息をついた。


「えー、ともかくですね……一応、天空世界とのいざこざは解決したと見てよいでしょう。これ以上は天空世界そのものとのドンパチになりますから」


「さすがに戦争する気はないぞ?」


 蓮はうんざりした様子で答えた。


「では、蓮さんはこのままダンジョン配信者として?」


「それはまだ決めてないけど……」


「えー! 蓮くん! 私と一緒に二人でダンジョン配信者やるって約束してくれたじゃない!」


「そんな約束してない……」


「で、でもダンジョン配信って儲かるし! かわいい彼女もついてくるし!」


「そもそも正式に付き合っているわけでは――」


 聖奈がショックを受けた顔でふらついた。


「で、でも蓮くん! 私が彼女ですって言っても否定しなかったし!」


 聖奈は涙目で蓮に詰め寄る。


「そこは、まぁ、うん」


 蓮は少しばかり考えた。が、長考するまでもなく、最初から答えは決まっていた。


「そうだな。否定しなかったのは、嫌じゃなかったから。こうやって一緒にいるのも、なんだかんだ楽しいから」


 よし、と蓮はうなずく。


「じゃあやるか! 恋人二人で行くダンジョン配信!」


「いよっしゃぁぁぁ! やったぁぁぁ!」


 聖奈が勝利の雄叫びを上げた。


〈聖奈さん、女の子らしさゼロの反応でいいんすかね〉

〈つーか蓮さん、思ったより勢いで生きてる人だな〉

〈でもこれで蓮さんのダンジョン攻略見られるの楽しみ〉

〈全部のダンジョン瞬殺してクリアしそう〉


「じゃあ、今日からこのチャンネル、聖奈と蓮のラブラブチャンネルに名前変更するね!」


「ラブラブチャンネルはさすがに変えない?」


 つーか変えてくれ、と蓮は訴えた。


「えー? じゃあ恋人チャンネルで!」


「それくらいならいいかな」


〈いいんだ……〉

〈いいのか……〉


 蓮はコメント欄の反応に苦笑いしつつ、


「じゃあ、まぁとにかく、今日の配信、行ってみよう!」


「聖奈と蓮の恋人チャンネル、始まるよー!」


 こうして、蓮はパラレルワールドの日本で超人気配信者となったのだった。(了)

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パラレルワールドの日本でバズって超人気ダンジョン配信者になった 笠原久 @m4bkay

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