第23話 身動きが取れない超巨大世界
天空世界は混乱していた。
「ギガント・ヘカトンケイルを喪失し、さらには将軍の勝手な行動……決して許されることではない! 軍部の横暴を許すな!」
元老院はそう息巻いて非難し、一方で軍部はといえば、
「そもそも将軍があのような行動に出ざるを得なかったのは、無計画に侵攻を進める政府の問題である! 軍部の意見を尊重していればこんなことにはならなかった!」
と元老院および皇帝を非難し、さらに、
「軍部の暴走を許したのは軍人出身の皇帝の問題! 退位すべき!」
とマスコミが騒ぎ立て、煽られた民衆が、
「やっぱり文官出身の皇帝のほうが……」
「いやいや、こういうときこそ軍部と連携できる皇帝じゃないと……」
「軍人出身だったせいで軍部が暴走したんじゃないか?」
「そもそも将軍の独断なんだから軍部全体の暴走って言えるのか?」
「つーか新しい皇帝って誰がいいんだよ」
と好き勝手に意見を述べ、皇帝が、
「退位するつもりはない」
と明言したことで「責任を取らないつもりか!」と過去の不祥事や裏金疑惑が掘り返され、さらに皇帝だけにとどまらず、元老院議員や軍部の不祥事など過去の問題も取り沙汰され……
――――――――――――――――――――
「という具合ですね」
案内人は蓮にむかって言った。ダンジョン内でのことである。
「たった一日二日でずいぶんな荒れようですよ。政府は新たな皇帝を擁立すべき派と、退位せず現皇帝でよい派で争ってますし、新皇帝派は新皇帝派で誰を帝位につけるべきかで侃々諤々の大激論。あと、地味に将軍が捕虜になったんで、将軍の後釜に座るのは誰かで早くも軍部の派閥争いが激化しており――」
「俺らのことそっちのけで内輪もめしてんのかよ……」
「言ったでしょう? 天空世界は動きません、と」
案内人はにこやかに笑った。
「まぁ予想されたことです。一つの組織としては大きすぎるがゆえに、動きが鈍いんですよ」
「動かないというより動けない感じだな、そりゃ……」
「賠償やら捕虜の返還やら色々とあるはずなんですが、そっちより現皇帝の進退と、新皇帝になるのが誰で、どの派閥に媚びを売るのがベストかを見極めるのに忙しい感じですね。我々にかまっている暇はなさそうですよ?」
「もしかしてだけど、俺や聖奈の世界に攻め入る話は棚上げになってんの?」
「棚上げというか――事実上の凍結ですね。有り体に言うと、『そんなことやってる場合じゃないから一時的に作戦は中止。捕虜やら賠償やらも含めて政治的混乱が落ち着いてから……』という名目で完全に止まっちゃってますね」
たぶんですが、と案内人は前置きしてから言った。
「結局混乱が落ち着かないまま、なあなあで侵略は終了。賠償とペナルティで苦しいので、蓮さんの世界と聖奈さんの世界はどっちも放置。そして聖奈さんの世界の基幹ダンジョンは、天空世界の辺境とつながっていますから、攻略できれば天空世界を直接侵攻できるようになって反撃開始で……要は、よくある反天空世界勢力の完成、という感じだと思いますね」
「そういや天空世界自体も攻め込まれてるって話だったけど……こんなふうに侵略失敗してわざわざ敵を作ってんのか……」
「いつもというわけではないんですが、割とそうなる事例が多いのも事実ですね」
ところで……と案内人は不審げな顔をした。
「蓮さんは何をしてるんです?」
「見てのとおり、ダンジョン配信だよ。案内人の乱入は予定外だったけど」
「それは見ればわかりますが……なぜ聖奈さんと一緒なんです?」
案内人は聖奈に目を向ける。彼女は蓮のとなりに立つ――だけではなく、思い切りひっついて腕を組んでいた。
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