第22話 配信された戦い
「配信を見ることはできるんですがね。コメント機能に関しては同じ世界――より正確には、同じ世界からでないと書き込めません。たとえば蓮さんの配信にコメントするには、蓮さんの世界に来ないとダメなんですよ」
「あ、あのー……」
聖奈が遠慮がちに手を上げた。見れば、彼女も配信画面を空中に開いている。
「なんか、私の配信のコメント欄、すごいことになってるんだけど……」
「当然ですね」
案内人は真顔でうなずいた。
「なにせダンジョンの謎とか、異世界の実在とか、天空世界からの侵略とか……様々な情報が一挙に公開されたわけです。それも生中継で」
「確か、俺の世界と違って聖奈の世界は――」
「ダンジョン配信が一般化してますから、冗談抜きで世界中の人間が見てますよ。全世界生配信です。彼らの」
と、案内人は将軍らに目を向け、嘲るように笑った。
「成果ですね」
「ここ、やっぱりダンジョンなのか……」
蓮は辺りの様子を見回した。洞窟のような内壁……小田桐ダンジョンと同じような風景が広がっている。
「ダンジョン化して、無理やり引きずり込んだんですよ。でないとギガント・ヘカトンケイルを速やかに移動させられませんから。そして、ダンジョン内で襲撃すれば配信されます。参加者全員が事前に配信停止をしていれば見られずに済みますが……。不意打ちだと不可能ですからね」
「ああ……これデフォだと自動で配信状態になるのか……」
「たまにクソ仕様ってクレームが来ますが――配信停止は、ダンジョンに入り直すたびに設定し直さないとダメな仕様になってるんです」
けど、と蓮は首をかしげる。
「天空世界どうたらって話してるときは、まだダンジョン化してなかっただろ?」
周囲の光景が一変したのは、将軍たちが襲いかかる直前だ。それまでは普通の店内だった。それとも、実はあの時点ですでにダンジョン化していたのか?
「ダンジョンじゃなくても配信自体は可能ですからね」
案内人は映像を小突くように指先で弾いてから、こともなげに言う。
「彼らはずっと配信してたんですよ。正当化のために」
「正当化?」
眉をひそめる蓮に、案内人は片目をすがめてみせる。
「天空世界の情報や策略が漏れてしまっている。しかも装備の提供もある。これ以上は危険だ。だから蓮さんは、なんとしてもここで始末しないといけない――」
「ああ、これ以上ほうっておくとまずいことになるから……ってのをわからせるために配信してたのか」
「そうです。そしてバトルを仕掛けた結果――天空世界の人間と蓮さん、聖奈さんらが出会ってしまい……その配信を、今まさに侵略しようとしている世界の人間に見られてしまっているわけですね」
「なんかデメリットのほうが多そうだな。説得するためとはいえ、天空世界の情報を聖奈たちの世界に拡散するのはまずいんじゃないか? 俺の世界は――まぁ、公開されても誰も見そうにないから実害ないとしても」
「脅しの意味も込めてたんでしょう」
案内人は人差し指を立て、にやりと笑う。
「私と接触した時点で、ある程度の情報が漏れることは確定です。だったら、ここで蓮さんと聖奈さんらを倒し、天空世界の武力を示しておく……。注目が集まってますからね、ここで蓮さんや聖奈さんたちが全滅したら相当なインパクトですよ?」
「そりゃまぁ確かに。結構なショッキング映像になりそうだ」
「実際、自信はあったんでしょう。少数精鋭とはいえ、ギガント・ヘカトンケイルまで持ち出しているくらいです。ここで蓮さんを撃破できれば狂った計画も修正がきく。侵略が完了すれば、どちらにせよ天空世界のことは周知の事実になるわけですからね」
「順番が変わっただけで予定に変更はない、か……」
「最初の基幹ダンジョン打ち込みには失敗しましたが、これから第二、第三と打ち込んでいけばいいだけですし、場合によってはギガント・ヘカトンケイルを使って将軍自らSランクを各個撃破していってもいい。可及的速やかに侵略を完了させるための一手――だったんですが、まぁダメでしたね。蓮さんが全部狂わせました」
案内人の表情は実に愉快そうだった――天空世界に好き勝手にやられて、だいぶイラついていたのかもしれない。
「で、ここから連中はどう動くと思う?」
追撃はない、と案内人は断言したが――奇襲に失敗した以上、次は正攻法で正面から大軍をぶつけてくるか、それとも毒殺や人質のような、より陰湿な手を使ってくるか……しかし案内人の言葉は、蓮の予期しないものだった。
「動きませんね」
一瞬、蓮は聞き間違えたのかと思った。
「いえ、『動かない』というのは正確な表現ではありませんが。内部では色々と暗躍するでしょうし。ただ……蓮さんたちに対してはなにもして来ない――いえ、できないと思いますよ」
「そりゃどういう……?」
「天空世界は超巨大だということです。まぁ続報については、逐一お伝えしますよ」
案内人はそう言って、意味深に笑うのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます