第21話 コメントできる人間とは
「実際には蓮さんに武術の手ほどきをしただけで、むしろ敵に塩を送る形になっていましたがね。しかも全世界大会三連覇中のチャンピオン自らが指南する始末」
「全世界?」
「文字どおり、すべての世界から挑戦者を募って行なう超大規模な大会ですよ」
案内人の口調は実に楽しげだった。
「天空世界の支配下にない世界からも有望選手を招待するほどで、三年に一度……全世界最強のチャンピオンが生まれるわけです」
案内人は腕組みをして、大男に目を向けた。
「彼は天空世界の将軍であり、武術において比類なき強さを誇る猛者……その技術を蓮さんにラーニングさせたわけですから、まぁ控えめに言っても大戦犯ですね。ギガント・ヘカトンケイルの喪失に加えて、蓮さんの大幅強化までやってのけたんですから」
「高い地位っぽいが、その割には部下の数が少ないな」
将軍といえば、大軍勢を率いる者……という印象が強い。だが、この場にいるのはたった九人だけだ。いくらなんでも直属の部下が少なすぎではないだろうか。
案内人は声を上げて笑った。
「そりゃあ足手まといを連れてきても意味がありませんからね。我々と対等に戦える、あるいはせめて足止めができる程度には手練でなければならないんです。もちろん、時間があれば部隊をきちんと編成して出撃したできたでしょうがね。しかし、それでは遅すぎる」
「今すぐ動かせる手頃な部下で、なおかつ強いヤツ……って条件だと、こいつらしかいなかったわけだ」
「個人的にはよくやったほうだと思いますよ? 少なくとも我々の足止めはできていたわけですから。ただ……蓮さんを相手取るには、あまりにも戦力不足だった。甘く見すぎですね」
蓮はため息をつく。
「で? こいつらどうするんだ?」
「とりあえず拘束はしてありますから、あとは関係各所に連絡して担当者に丸投げですね。思いっきり協定違反なのでペナルティが課されますし、ここからは賠償やらなんやらの政治的なお話になります」
蓮さんにも補償が出ると思いますよ、と案内人は満面の笑みを浮かべる。
「それよか追撃があるのかどうかのほうが気になるな。俺を殺しに来たってことは、同じように不意打ちで襲撃される可能性が……」
「いえ、それはありません」
「断言するのか……」
困惑して問えば、案内人は苦笑する。
「言ったでしょう? 相当な痛手だったと。今回の急襲は将軍個人の独断専行で、天空世界の総意じゃありません。向こうも肝をつぶしていますよ。自分たちの引き当てた脅威が、自分たちの想定をはるかに上回る怪物だったことに」
「褒められてんだか貶されてんだか……」
「恐れられてるんですよ、天空世界の反応を見るかぎり」
と、案内人はハンドサインで、ダンジョン配信の画面を呼び出した。空中に蓮たちの映像が現れ、さらに見たことのない謎の文字列がコメント欄に並んでいる。
「それは……」
「天空世界のダンジョン配信です。これも案内人の能力みたいなものでしてね。ほかの世界の配信をこうやって見ることができるわけです。ちなみに」
と、案内人はもう一度ハンドサインをした。空中に蓮たちの映像が現れるが、隣の画面と違ってコメント欄にはなにも書かれていない。
「蓮さんの世界でも配信されていますよ。まぁ蓮さんの世界の人は誰も見ていませんが」
「それはコメント欄の寂しさを見ればわかる――いや待て、『俺の世界の人は』って、つまり……」
「わざわざ蓮さんサイドの配信を見ている人も結構な数いるようですね。主に聖奈さんの世界の人間ですが。コメントがないので、ある意味配信に集中できるとかなんとか」
案内人がまたしても別のハンドサインをして、違う画面を空中に呼び出す。どこかの掲示板らしき映像だ。
「もしかして、コメントできるのって同じ世界に住んでいる人間だけなのか……?」
「そのとおりです」
案内人はにっこりと笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます