真実は闇の中に

秋犬

真実は闇の中に

 1888年11月9日早朝、ロンドンのドーセット・ストリートの一室で1人の女性が殺害された。彼女の内蔵は引きずり出され、更にその顔も判別出来ないほど全身がズタズタに切り裂かれていた。


 彼女の遺体は衣服をほぼ身につけてなく、着ていたと思われる服は暖炉の中で燃えていた。いち早く現場に駆けつけた2人は暖炉のそばに落ちていた犯人の眼鏡を拾い、その場を後にした。


 その後日が昇り、彼女を尋ねてきた者により遺体は発見された。巷を騒がす「ホワイトチャペル・マーダーズ」の犯行に違いないと捜査が進められたが、結局犯人はわからずじまいであった。


 ***


 時空艇に戻ったシノスとロードは凄惨な光景が目に焼き付いて離れず、眼鏡を処分してからも気分が優れなかった。


「何であんなことできるんだろうね」

「出来るというより、何故やる必要があったのかだよな」


 激しく損壊した遺体を目の当たりにして、2人は犯人に疑問を持っていた。


「殺した理由って、彼女が売春婦だからだったよね」

「ああ、だからといってあそこまでバラバラにする意味がわからないんだよな」

「確か誰でもよかったから、バラバラにしたかったんじゃなかったかな」


 シノスの返事にロードがため息をつく。


「だいたい好きで売春婦なんかやってないだろうに、それが理由で殺されるなんてあんまりだ」

「正義のヒーローは、間違ってることが許せないんだろうよ。だからこの世から消した」

「それを言うなら、間違ってるのは全部消されなきゃいけないのか?」

「消してきただろう、今までもこれからもきっと」


 シノスの言葉にロードは更に気分が悪くなる。


「それにしても、あの眼鏡を消すなんてとんだ指令だね」

「あいつの正体がバレてから面倒くさいことになるからな。この後の歴史ではその辺のことは綺麗さっぱりなくなるはずだ」

「その代わりもっと大変なことになるけどね」


 歴史の波に消えた殺人鬼の正体に思いを馳せ、2人は次の時代へ向かった。

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