第25話 Moto3 カタルニア

 5月末、初夏のスペイン・バルセロナは日本の夏みたいだ。カタルニアサーキットには20万人近い観客がおしよせる。駐車場には多くのバイクが並んでいる。なんといっても英雄マルケルのお膝元。他のスペイン人ライダーも多く、熱狂的なファンがやたら多いサーキットだ。

 去年はタレントカップで走っている。コースは熟知しているつもりだが、1047mあるメインストレート後の第1コーナーと、下りからの左コーナーの第5コーナーと第10コーナーが勝負どころだと思っている。

 マシンの調子は良く、フリープラクティスで1分47秒台を出し、Q2に進出できた。エイミーも同じである。KT社のマシンは好調だ。

 Q2ではエイミーとスリップを使い合い、1分47秒178を出し、予選5位を確保できた。予選だけなら自己最高ポジションである。エイミーは1分47秒137で予選4位となっている。二人で仲良く2列目に並ぶことができた。隣の6位には古山がいる。ただし、彼は予選中にペナルティを受け、ダブルロングラップペナルティを消化しなければならない。

 決勝日は晴れ。気温28度、路面温度45度。タイヤはミディアムを選択している。他のチームも同様だ。

 決勝スタート。第1コーナーまでは加速勝負だ。私はアウトに出てアクセルをあける。エイミーはインにいく。そこに後ろからダッシュしてきたマシンがあった。ジム・フランクだ。予選9位と3列目から猛ダッシュをかけてきた。他のマシンを押し出す感じで前にでていく。そしてインのまま第1コーナーに突っ込んでいく。無理なラインだが、まだ1周目でスピードがあがっていない。それでジム・フランクは2位まで上がり、第1コーナーを抜けた。私は順位を守った。エイミーは集団にのまれて、私の後方に位置している。

 5周目、半数近い台数でトップ集団を形成している。メインストレートでは4ワイドになっている。エイミーは私の後ろについている。他のマシンのスリップに入り、第1コーナーでのブレーキング勝負だ。古山がここで1回目のロングラップペナルティを消化し、トップ集団の後ろについた。それで私は4位にあがった。オレトラ・ジムフランク・アレンソの後ろにつけている。オレトラはポールポジションをとっていた。アレンソは予選2位。

 8周目、上位3台が順位を入れ替えはじめた。第5コーナーと第10コーナーの下りの左コーナーのたびにトップが変わる。ここのサーキットはマシンを倒していることが多いので、あまり攻めるとタイヤがもたない。私とエイミーは少し離れてタイヤ温存策をとった。ピットからは「KEEP」のサインが出ている。

 10周目、ジムフランクがロングラップペナルティを受けた。第2コーナーをショートカットしたみたいだ。

 11周目、古山が2回目のロングラップペナルティを消化した。が、第5コーナーでスリップダウン。リタイアとなった。せっかくの2列目スタートだったが、気持ちがあせったのかもしれない。

 12周目、ジムフランクがロングペナルティを消化しようとして、第1コーナーのペナルティコースに入って、右にマシンを倒したところでスリップダウン。スピードの出し過ぎで入ってしまったようだ。マシンを起こしてリスタートしていたが、もう一度ロングラップペナルティを消化しなければならない。もう上位にはあがってこれない。これで、私はオレトラ・アレンソに続いての3位についた。だが、10mほどの差があり、スリップにはつけない。むしろ、私がエイミーを引っ張っている感じだ。

 15周目、トップを走っているオレトラにペナルティがでた。トラックリミット違反らしい。

 17周目、オレトラがロングラップペナルティのコースに入る。でてきた時は、私とエイミーの後ろについた。

 ファイナルラップ。トップは独走でアレンソ。続いて2位集団が私とエイミー、そしてオレトラである。3台ともタイヤが悲鳴を出し始めている。コーナーの度にズルっとする感じがする。

 ショートストレートでエイミーが私のアウトにでる。ここで無理をすると私は転ぶと思った。引っ張っていた分、私のタイヤの方があぶない。そこでエイミーを前に行かせる。と思ったとたん、オレトラも突っ込んできた。私がペースを落としたのを見逃さなかったのだ。だが、曲がれるスピードではない。スーっと右に流れていった。タイヤが限界を越えていたのだ。

 結果、私はまたもや3位となった。3回目となると、うれしさも半分だ。でも、今回はチームメートのエイミーが2位。彼女にとっては初表彰台。今まではジムフランクがらみで表彰台を逃していたので、喜びはひとしおだ。表彰台の下でマシンを停めたら、エイミーがとびかかってきて激しいハグをした。

「Thnak you ! 」

 の連呼だった。チームのメンバーも大喜び。皆が喜んでくれるのが何よりのうれしさだ。

 表彰台に2人の女性が立つのは初めてだ。アメリカ人のエイミーはアルコールOKだが、私はNO。シャンパンはかけるだけで終わりにした。

 Moto2では、日本人の中倉が優勝した。サーキットに日本の国歌がながれる。私も一度は表彰台で聞いてみたいものだ。チームオーナーのハインツ氏はリタイア。第5コーナーで滑っていた。今回のレースは波乱が多かった。

 次は、1週間後のイタリア・ムジェロ。明日にはイタリアに移動する。チームは一度、ザルツブルグに戻る。マシンの調整をしなければならない。メカニックは大変だ。

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レーサー2 女性ライダーMoto3挑戦 飛鳥 竜二 @taryuji

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