私が眼鏡かけようがかけまいがお前達には関係ない

うぃんこさん

私が眼鏡かけようがかけまいがお前達には関係ない

「テメェ絶対許さねえ!!!」

「それはこっちの台詞だ!!!」


休み時間の教室にて、二人の男子高校生が殴り合いの喧嘩をしていた。誰も止める者はいない。基本的に事なかれ主義に育った現代日本人は迷惑そうに横目で見ているだけだ。


というか今時、殴り合いの喧嘩なんかしないだろう。今時の子達はLINEで未読スルーしたりグループに入れなかったりとかもっとこう精神的にネチネチと攻めてくるはずだろう。よほどキマッたカクヨム作家でもなければ直接暴力を行使しないのと同じだ。


そうではなく昭和めいた決闘ガチンコなど、時代錯誤にも程がある。それはグループ間のふとした拗れではなく、個人と個人の互いの信念に基づく決定的な断絶があった事に他ならない。


「はいはい、どうどう。怒鳴り合いと殴り合いの中でおちおちご飯なんか食ってられないから外でやってきな」


仕方なく、学級委員長という立場を一応は全うするために眼鏡をかけた女子が二人の間に入る。流石に女子を殴るわけにはいかないのか、二人の拳はそこで止まった。今にも殴りかからんと荒い息を立てているが。


「だってよ委員長!こいつ、この子は眼鏡を外した方が可愛いって言うから!」

「黙れ眼鏡原理主義者め!俺はただ本心を吐露しただけだろ!」


男達は眼鏡をかけたアニメキャラが映ったスマホの画面を委員長に突き付けた。予想以上にくだらない理由で喧嘩していたことに対して、委員長は深いため息をついた。


「……あのなあお前ら。そんなくだらない事で喧嘩していたのか?教室内で?」


「くだらないとは何事だ!その眼鏡叩き割ってコンタクトに変えてやろうか!」

「馬鹿野郎眼鏡女子に迷惑をかけるな!コンタクトレンズなんか普及したせいで俺の癒しがどんどん減っていくんだよ!」


今度は委員長に向かって男達の拳が飛んでくる。が、委員長はその拳を掴み、捻り上げた。


「がああああ!」

「それ以上いけない!」


「……お前ら、他人を自分の性癖に巻き込むんじゃねえよ!眼鏡外した方が可愛い?眼鏡かけていたほうが可愛い?ふざけんな!眼鏡をかけているのは、理由があるからなんだよ!」


「グワーッ!」

「アバーッ!」


男達はそのまま、教室の床に叩きつけられた。そして、何かを悟ったのかその場に正座した。


「お前ら。何故眼鏡ユーザーは眼鏡をかけていると思う?」


「ウッス!目が悪いからッス!」


「そうだ!誰しもかけたくてかけているわけじゃないんだ!かけなきゃ文字が読めねえからかけているんだよ!」


「じゃあコンタクトでもいいんじゃ……あと伊達眼鏡は……」


「話の腰を折るな馬鹿者!」


「グワーッ!」


委員長は眼鏡外した方がいい派の方の頭を蹴り上げた。


「例えば、これは私の話なんだが……怖いんだよ……コンタクトをつけるの……」


「えっ……」

「暴力ゴリラ眼鏡のくせに可愛いところあるじゃん……」


「後で殺す。とにかく、個人の自由ということだ。伊達眼鏡だって同じでアレをファッションの一部だと捉えている層もいる。コンタクトの方が良いという奴もいる。例えばだ。この中にきのこの山の方が好きな者は?」


クラスの約半数が手を挙げる。


「では、たけのこの里の方が好きな者は?」


もう半分が手を挙げる。ちなみに眼鏡派と非眼鏡派はきのこ・たけのこでキッチリ対立していた。


「テメェとはやはり分かり合えないな!!!」

「第二ラウンドだ滅びろきのこ派ァ!!!」


「どうでもいいわ!殴り合うな馬鹿共!」


委員長の両の拳が二人の男の脳天に直撃した。


「何でだよ!戦争を起こしたのは委員長の方だろ!」


「正確にはだろう。まったく、同じ会社のちょっと違う菓子のどっちが好きかで争うなど、誰が考えてそれがミーム化したのか知らんが、そんなの人によって違っていて何が悪い?そもそも本当の意味で戦争をする気もないのに戦争だとか軽々しく言うんじゃない」


「うっ……」


現在進行形で叱られている男二人だけでなく、クラス全員が固まってしまった。


「確かに利権を巡って対立するからこそ戦争は起きるのだが、それは互いに不都合があるからだ。自分の好きを他人に押し付けるなど心底くだらない。つぶあんとこしあん?うすしおとのりしお?眼鏡をかけているかかけていないか?そんなの各個人が好きなものを手に取れば良い。ああ、同じ皿から摘まむ唐揚げにレモンをかけるかかけないか。これは対立に該当するな」


「じゃあ眼鏡だって同じじゃん!俺達はこの子が眼鏡かけているかかけていないか、同じキャラの是非について争ってんの!」

「宇佐見の良さは俺が一番分かっているからな……EDで眼鏡を外した姿が本当に可愛くてさ……」

「あ!?蒸し返すんじゃねえよ死にてえか!?」


委員長のローキックが男達の腰あたりに刺さり、二人とも悶絶した。


「そういう時のためのゾーニングだ。各々が小皿に唐揚げを取り、好きな調味料をかければ良い。お前は眼鏡をかけていない方の、お前は眼鏡をかけている方のキャラを愛でれば良い」


「そ、そうだったのか……」

「ごめんな……俺が間違っていたぜ……」


「分かればいい。どうせ二次元の女がお前達になびくことは一生無いからな」


「「ひどい!」」

「でもいいんだ……恥ずかしくて言えなかったけど、本当は俺と同じものを好きじゃないお前が怖かったんだ……」

「ば、馬鹿……みんなが見ている前だぞ……」


男達は、その場で抱き合った。クラスメイト達は今度こそ見て見ぬ振りをして、昼食にありついた。






「ところで委員長も眼鏡外せば美少女になるんじゃないの?」

「馬鹿野郎!これ以上傷を増やしたいのか!?」


「ん?ああ、別に減るもんじゃないが……」


「……ごめん、間違っていたのは俺の方だった」

「そりゃ、コンタクトレンズ入らないよな……」


「よし、張り倒してやるからそこに直れ」


委員長の瞳は、非常につぶらであった。


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