メガネ税60パーセント

清水らくは

メガネ税の高い世界

 メガネはよく見える。メガネは楽しい。メガネはモテる。

 コンタクトレンズが非常に安価になり、レーシックが当たり前になった現在、メガネは嗜好品であるとの認識が一般的になっている。

 メガネ税が導入されたときは、批判がすごかったらしいが、今ではメガネをするのは少数派で、メガネ派は肩身の狭い思いをしている。

 子供の頃は飲食店にメガネ着用スペースがあったものだが、今では禁メガネのところがほとんどである。飲食店だけではない。ほとんどの施設で、メガネをかけたくなったら着メガネスペースに行かなければならない。

 自動車免許を取るときも大変だった。メガネ専用免許を取るには、メガネ着用コースのある教習所に行かなければならない。免許をとったとしても、禁メガネ道路に侵入しようものなら一発免停である。

 メガネ税はどんどん高くなり、ついには60パーセントをこえた。それでも僕は、メガネを辞めない。仕事では。

「お父さんまたメガネしてる」

 部屋でこっそりかけていたのだが、娘に見つかってしまった。慌ててメガネを外す。

「お母さんには黙っててね」

 こともあろうに、僕はメガネ嫌いな女の子に恋をしてしまった。嫌メガネ家もだんだん増え、メガネをしていればモテるという時代は去ったのだ。今では映像の中でメガネをかけていても批判が来ることがあるらしく、子供向けのアニメなどではメガネキャラはまず出てこない。

 結婚するときも、「絶対家ではメガネをかけないこと」と言われた。すごく悲しかった。

「それ、新しいのじゃない? 買ったの?」

「いやその……なあ、お小遣い、あげようか」

「うん」

 慣れているもので、娘はすっと右手を差し出した。お札をその手に置いても、娘は手を引っ込めない。

「メガネは60パーセント増しで払うって習った」

「……わかったよ、はい。これで許してくれ」

「わーい」

 娘は元気に走り去っていく。お金を稼ぐために僕を監視しているに違いない。

 夜になり、妻と娘が寝静まると、僕はメガネを手にベランダに行った。僕だけではなく、現在のメガネ好きたちは家の中でメガネをかけさせてもらえず、夜になるとベランダでメガネをかけるのだ。

 わかっているんだ。メガネを辞めればいい。

 だけど、やめられないんだよなあ。

 僕はすでに、次はどんなメガネを買うのか考えている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

メガネ税60パーセント 清水らくは @shimizurakuha

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ