酔いどれおじさん戦士は恐怖した。山賊親分はホモではないかと

タルタルソース柱島

おいおい、なんだってオレなんだよ!?

「へへへッ! 俺ァ、アンタみてぇなのにメガネェんダヨ!」

「うわああァァァァ! やめろ! やめてくれぇぇ!!」

おじさん戦士ゴラヌスは恐怖に顔を引きつらせながら不自由な身体をくねらせた。

 そんな素振りを微塵も気にしない山賊親分の魔の手が、ゴラヌスのむき出しの胸板を撫でる。


 HENTAIだ!!


 おじさん戦士は直感した。

 世の中、男が好きな男がいると聞いたことがある。

 山賊ともあろうものなら間違いない。

 捕虜にした男をウエッヘヘッヘするに違いない!

 今のいままで体を張って、女勇者、聖女様を守らねばと固く誓った思いが消し飛んでいく。

 山賊親分の怪しい手つきがおじさんの嫌悪感を加速させる。


「イイ身体してンなぁ、アンタァ。タノシミだぜぇ? ーーーなぁ、ヤろうぜぇ? アンタもそっちの方がイイぜ! お子さまのおもりなんざ楽しかネェだろぉ?」

「うわ、うわあぁァァァ!! ヤ、やめろぉ! オレは決して!」

縄を引きちぎろうとするが、より一層手首に食い込み絡まる。


 おじさん戦士はイイ感じに酔っていた。

 

 昨晩、調子に乗って浴びるように呑んだ酒で激しい二日酔いになっていた。

 やる事成すこと裏目に出るわ、お肌の感度が上がりすぎ、撫でられただけでビクンビクンしちゃうくらいには。

 ゆえに山賊親分の話も半分以上聞いていない。

 こんがらがる頭でおじさんは最適解を考える。

 倫理的、戦略的に考えると18歳の女勇者と聖女を死守すべきだ。

 なんせ替えがきかない。

 しかし、その選択はーーー


「お頭ァ、連れの坊主をオトしやしたぜ」

ハッと顔を上げると、三人の山賊子分に引きずられてきたのはボロ雑巾みたいになった少年魔法使いの姿だった。

 ハムスターみたいに愛くるしかった彼は、疲れ切った顔で呟く。

「はぁ・・・・・・僕、もうダメです」

「うわあぁァァァ!! お前ら倫理観ぶっ壊れてんのかァァァァ!!!」

おじさんの頭の中はピンク色に染まっていく。

 見たことも何もないけど、きっと禁断の茨の園が広がっていたに違いない。

 おじさん戦士の視線が右に左に激しく動く。


 ヤバい! 逃げなければ!!


 足元でぐったりと倒れたままの少年魔法使い。ガクブル寄り添って震えている女勇者と聖女。

ニヤニヤ笑いながらおじさんの上腕二頭筋に頬ずりするHENTAIもとい山賊親分。

周りには無数の手下。

万事休すか!


「い、嫌だ・・・・・・」

おじさん戦士の口元から本音が漏れる。

「え”? イヤ? アンタ、イヤなの? ふーん。超タノシイと思うんだケドネ」

ムキムキの肩甲骨付近を撫で回していた山賊親分の手がピタリと止まる。


 そうだ。嫌なものは嫌だ。

 そんな趣味はないし。


「んジャア、仕方ないカラお嬢サン。ウーン! マーベラァァァす!!」

「ひぃ!」

そそくさとおじさん戦士ゴラヌスから標的を変えると女勇者のそばに寄る。

 山賊親分の手が女勇者の太ももを無遠慮に撫で回した。

 黄色い悲鳴がおじさんの倫理観を揺さぶる。

「オウ! かわいいお嬢サン。イイねぇ、俺様アンタみたいなのにもメガネェんだよ! よう、俺様たちと一緒に山賊王目指そうぜぇ! 可憐な女幹部、イイねぇソソるねぇ!!」


二日酔い真っ最中のおじさん戦士ゴラヌスには聞こえていない。

 ただ山賊共がイヤラシイ手つきで男女構わず食い散らかすとしているようにしか見えていなかった。


「くっ! なんだってオレなんだよ!! キャッキャウフフしながら旅したかったよ!!」

勘違いしたまま戦士は立ち上がるとほんの一かけらの倫理観を握りしめた。



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酔いどれおじさん戦士は恐怖した。山賊親分はホモではないかと タルタルソース柱島 @hashira_jima

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