あなたが好きなのは【KAC20248・めがね】
カイ艦長
あなたが好きなのは
乱視の私だがめったにめがねをかけない。
物が何重に見えたり霞んだりするものの、それ以外は取り立てて不便と感じないからだ。
よく「めがねは松葉杖で、コンタクトレンズはギプス」だと言われる。
いつでも着脱できるめがねは、一度固定したら容易には外せないコンタクトレンズよりも目にやさしいのだと。
それを聞いていたから、私は普段からコンタクトレンズを使わず、必要なときにだけめがねをかけるようになった。
だからか、よく見ようとして眇める表情が、にらみつけているように見えるらしい。
付き合っている彼氏からも「いつもにらんでいて怖い」と評される。
そのたびに「これ以上視力を落とさないためだから」と言い訳するが、裸眼視力が一.五度の彼氏にはピンとこないようだ。
「めがねをかけたくないのなら、コンタクトレンズを入れればいいじゃん」と気楽に言ってくるが、私としては安逸に流されることを意味していた。
乱視というのは厄介で、物が何重にも見えることで、細かな文字が読めない。
めがねをかけてもなんとか読めるくらいで、明確にくっきりはっきりとは見えないのだ。新聞はもとより、紙の書籍を読むのも苦労する。
乱視は放っておいていい状態ではない。時間とともにどんどん悪化していくからだ。
「せめてめがねはかけてもいいんじゃないか。視力の維持のためにも」
私はその言葉に、意地になってしまう。
「見えないと思ったときにだけめがねをかけるから、めがねのありがたみがわかるんだよ」
そう言っておくのだが、視力のよい彼氏には今ひとつ響かないらしい。
「俺はめがねをかけたお前も好きなんだけどな」
彼氏は若干のめがね属性を持っているようだった。
付き合い始めたきっかけも、私がめがねをかけているときに声をかけられたからだ。
彼が望むのは、めがねをかけた私の姿。
私ではなくめがねに恋をしたのではないのか。
そう思い至って気分が下がる。
だから私はささやかな抵抗を続けるのである。
あなたが好きなのは【KAC20248・めがね】 カイ艦長 @sstmix
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます