めがね

闇谷 紅

ところ変わればなんとやら

「遅いッ! もっと早く、優雅にクイッとやるのだ!」


 叱咤する声が部屋に響き。


「はい、父上!」


 必至そうな、まだ幼い声が上がった。


「……はぁ」


 ところ変わればなんとやら。まして世界まで変わってしまえばこういうこともあるのだろう。


「んなことで納得できるかぁぁぁぁぁッ!」


 できればそう叫んで暴れたい。だが、非情なまでに私が転生した先の世界、生まれ落ちた国は「めがねをクイッとやること」がものすごく大きな意味を持つ場所だった。

 故に今世の弟は現在そのクイッとやることへの指導の真っ最中であり、私の前には不必要なまでにめがねが並んでいる。


「さ、若様。明日のパーティーにつけてゆくめがねをお選びください」


 なんてことを言われていたりもするが、それらのめがねはすべてが伊達めがねだ。そのくせ過度に装飾されたもので、派手なんて言葉で言い表せないくらいにけばけばしい。


「……じいならどれを選ぶ?」


 正直全部却下だと前世から引っ張っている感覚で言ってやりたいところだが、前に行った結果、逆にめがねがよりけばけばしく悪化したためにそれも出来ず、私は促してきた人物へと逆に問い返してみる。


「じいめですかな? いけませんぞ、若様。それではめがねを見る目が、センスが培われませぬ。ご自身でお選び下され」

「……そうは言うがな」


 前世のパーティーグッズにあった鼻メガネとどっこいどっこいなシロモノしかないので正直どれも一緒にしか見えません、などという訳にもゆかず。


「そもそも『めがね』はこの世界を救って下さった伝説の勇者様に敬意を表すものなのだよな?」

「いかにも。流石は若様。よく勉強されて――」


 勉強も何も耳にタコが量産されるほど言われてきたことなのだが。どうやらこの世界へ過去にトリップだか何だかをした同郷の人物が今私を悩ませる悪習慣の元凶であるらしい。


「勇者様の身につけられていためがねが一般に公開されるのは二十年に一度。次は二年後、たった二年後です」


 正直私はどうでもいいが、国を挙げてのお祭り騒ぎらしく、私自身付き合わされることは間違いなさそうで。


「はぁ」


 嘆息する私はまだ知らなかった、二年後その伝説のめがねに選ばれるなどと言うことは。

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めがね 闇谷 紅 @yamitanikou

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