6、顛末と新生活
そして……
深夜にかけつけた警察の主導で事件は収束した。
リューマも事情聴取を受けたが、あっさりしたものだった。橋本がおおよその事情を説明してくれたのだろう。高校生の頃に何度もリューマを補導した刑事は、すっかり髪が白くなっていた。
コバルトこと小林遙人は逮捕された。余罪を追及されるだろうが、巧妙に隠した証拠が見つからなければ、軽い罪にしか問えないだろう……というのが、刑事の見立てだった。ブルーズはほとんどが未成年だ。彼らが重い罪に問われることもないだろう。
「昔のお前と大して変わらん」
と言われたことは、リューマにとっては大いに不服だった。
「よっぽどうまくやってたのかね」
今となっては手狭に感じる部屋の中でリューマはつぶやいた。ブルーズが詐欺に関わっていたのかどうか、彼にとっては知る由もない。
「リューちゃん、ご飯よ」
「はーい」
母親が呼ぶ声に答える。リューマはまだ無職だ。50人相手のケンカで疲れ果てて、あれから何日も部屋でゴロゴロするだけの日々を過ごしていた。
部屋を出ようとしたところで、何年も使っている安物のスマホに着信があった。
「橋本さん?」
『ああ。どうだ、体の調子は』
「おかげさまで、もう元気ですよ」
『ならよかった。お前、働き口を探してるんだろ?』
「えー、あー、はい、まあ」
答えにくそうにどもるのを聞き、橋本が電話口で笑うのがわかった。
『ちょっと仕事をしてみないか。就職ってわけじゃないけど、困ってることがあってな』
「……ヤバいヤクの運び屋とかじゃないでしょうね?」
『そんなブラックなわけあるか。グレーだよ』
「安心できねえ」
『お前はこの辺に詳しいし、ケンカが強いだろ。そういうやつに調べ物やなんやを頼みたいクチに心当たりがあるんだ』
「仕事って、就職先の紹介してくれるんじゃないんですか」
『何でも屋みたいなもんだ、シティーハンターみたいでかっこいいだろ』
「気が乗らないなあ」
『うちのテーブルの修理代、請求してもいいんだぞ』
「うぐ……分かりましたよ」
『あとでぱれっとに来てくれ。そこで話すよ』
通話を終えて、リューマは大きく息をついた。
「どうしたの?」
落ち込んだ様子に気づいた母に声をかけられ、軽く首を振った。
「なんでもない。愛してるよ、母さん」
母はさらわれたことなどなかったかのように振る舞っているが、ショックがないはずがない。
「ありがとう。私も愛してるよ」
「ご飯なに?」
「カレー」
「マジ? 最高!」
橋本にどんな難題を頼まれるか分からないが、何にしろエネルギーは必要だ。
こうしてリューマが地元に戻って早々の事件は幕を閉じ、後に自ら『何でも屋ごっこ』を自称するようになる真生活が始まったのだった。
アーケード街の決斗 五十貝ボタン @suimiyama
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