二階調のわたしたち

達田タツ

二階調のわたしたち

 わたしの血の色、まっしろ。

 あなたの血の色、まっくろ。


 だれもこんな色を選ばないの。みんな、橙、黄、緑、青、藍、紫なんて、鮮やかな血を入れたがる。


 わたしとあなただけは、この世でもっとも複雑な色を選んだの。


 出会ってから、絵の具が混ざるよりもはやく、ふれ合った。


「つるつる、すべすべ、ね」


 細い指がわたしの肌に触れる。


 やわらかくて温かな指先と、かたくて冷たい爪を当てて、肩から肘へ、肘から手首へ、手首から指へ。


「あなたも、つるつる、すべすべ、ね」


 わたしも同じように触れた。


 夜に眺める海にも似た肌に、爪がほんのすこし食い込んで、指先が仄かなぬくもりを感じる。そして肩から肘へ、肘から手首へ、手首から指へ。


 最後。


 名残惜しそうに肌が離別して、互いの伸びた爪が引っかかる。


 爪と爪が擦れる振動が、まだ完全には離れていないの、と芯へうったえる。


 やがて空気がふたりの爪の間に割って入る。薄くて細い爪は、風に乗る百合の種みたいに、行き場を探してさまよう。


「おしまい?」


 不安そうにつぶやく。


 そうかもしれない、とわたしは考えて、なんだかとてもいやになった。

 作業には開始命令があって、決められた終了命令が訪れると――そう、おしまい。


「おしまいにしたい?」


 続けたい……?

 ううん、ちがうの。


 あなたのまっくろの目を見つめながら、指を絡める。


 二階調のわたしたちは抱き合った。


 爪はくぼんだ肌におさまって、ここが自分の居場所と言い張る。


 混ざり合えない白と黒は、それでも混ざりたいと願うの。


 キスをする。


 機械のキスはいたずらで、互いに傷つけた。


 白が、あなたの唇に残る。


 汚してしまったようで、わたしは悲しくなった。

 あなたもわたしの唇を見て、悲しげに眉をゆがめた。


 でも。


 もっとずっと、愛おしくなったの。


 アンドロイドのわたしたちは、赤い血の通った生き物につくられた。


 彼らは愛を教えてくれたけれど、どこからが愛なのかは教えてくれなかった。


 だから、願ったの。

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二階調のわたしたち 達田タツ @TatsuT88

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