無色透明幽霊

棚霧書生

無色透明幽霊

 人生ってやりたくないことが多すぎるので、じゃあ終わらせよってな感じで、サクッと首を吊ったら、死んだっぽいね。

 わあ、マジで死ぬのちょっと予想外っていうかぁ、こういうのってなんだかんだ怖くなって首から縄を外しちゃったとか、途中で縄が切れるとか、間一髪誰かが見つけて下ろしてくれるとか、そういう定石パターンがあるじゃないですか。それになると思ってたんだけど〜?

「てか俺マジで死んだん? ユータイリダーツはしちゃってるけどぉ、俺の体はまだここにあるし〜」

 ドアノブに縄をかけて首を吊っている自分自身を見下ろす。えー、俺ってこんな顔だっけ? 結構、イケメンじゃ〜ん、なんで死んだの?

「すべてがめんどくさかったからですね!! ギャハハ!!」

 いや、それにしてもよ、死んでからも意識あるってどういうことなん? だるすぎんか、俺がなんのために死んだと思ってんだゴラッ! なんにも考えないためだぞ!!

「でもまあ、無色透明の幽霊ちゃんだし、生きてた頃よりは考え事も少なくて済むか?」

 フワッフワッ空中に浮かんでみる、我はくらげなりよ。脳みそを使わなくていいのサイコーだな。

 それから二週間くらい経つとアパートの管理人が部屋に入ってきて、俺の死体を発見し、即通報、そんでもって警察とか特殊清掃の人たちが来ては色々やって帰っていった。

 俺のためにこんだけのピーポーが動員されるなんて、バイブス上げ、最終ライブならぬ最終ライフは盛り上がるもんなんだね。まあ、この部屋に来た誰も俺のこと知らないだろうけどね。

 死体も回収されたし、俺ってば本格的に事故物件ゴーストかましてるじゃん。大島てるとかに載ってんのかな。

「つか霊感あるやつとか、やっぱウソじゃね……?」

 割と大勢がこの部屋に入って作業してたけど、誰ひとりとして俺に気づかない。しかも、見えないし触れないからって人の体をすり抜けていく。俺はこれを死ースルー現象と名づけ、解明のために清掃員が複数名、部屋にいるときに両腕を広げてコマみたいにブンブン回ってみたが、マージでなんも起こらんかった。あと、目も回らない、ふしぎ! 実際には体がないからかしらん?

 今の俺って一体なんな〜ん? いるのいないのどっちなの? 誰からも観測されないから、俺がいることは確定しない。けど、我思う、ゆえに我ありみたいに考えると、思えてる俺は存在があることになるんじゃね? 知らんけど。

 てかさ、もしかして俺以外の人間とか動物も死後こんな感じなん? 俺が未練あって、幽霊ちゃんになってる可能性あるにはあるけど、これといって思い当たるもんナッシングよ……。

 本当はこの部屋も外の道も地球も幽霊でぎゅう詰めだったりして? え〜、想像したらキッショいんですけど〜。

 成仏できずこの部屋にひとり取り残された幽霊っていうエモいシチュのようでいて、幽霊も幽霊をお互いに認識できないだけって可能性はありますなぁ〜。

 はぁ……。俺はなにをくだらないことを考えているんだ……。ムリ、疲れた、死にたい、もう死んでる、笑。

 あー、やっべ〜、うつモードでやんすね〜。死んでからも人ってうつになれるんだね、世紀の大発見ですわ……。


 家具もない殺風景な部屋で、ひとりきり、カーテンの外された窓から星を見上げる。

「くらげになって夜に溶けたい……」

 くらげはなんか幻想的だし、なにより脳がないらしいから。

 フワッフワッて夜空にのぼって、なにも考えない無色透明になりたいよ。


終わり

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無色透明幽霊 棚霧書生 @katagiri_8

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