OK! Kagami!! 世界で一番美しいのは?

タルタルソース柱島

魔法と科学の鏡と女王様

 あるところに絶世の美貌を持つ自称世界一美しい女王が暮らしていました。

 女王は質問に答えてくれる不思議な魔法の鏡を持っていました。

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは?」

「女王様です」

女王は満足げに頷きます。

 まるで赤リンゴのような瑞々しく赤い色の唇が形よく歪みます。

 黄金を溶かしたような金色の髪をたなびかせ、公務に向かいました。

 鏡は主のモチベーションを上げれる有能な魔道具でした。


 ある日のことです。

 女王のもとに一通の手紙が届きました。

『拝啓 女王様

弊社の魔法の鏡をご愛顧いただき誠にありがとうございます。現在ご愛顧いただいておりますモデルですが、魔術法の改正により新しいモデルとの交換が必要です。

つきましてはーーー』

 手紙を読み終えた女王はふうとため息をつきました。

 そして、ところどころ塗装が剥げ、色褪せた魔法の鏡をなでます。

 女王の先代の、そのさらに先代の頃から受け継がれてきた鏡を手放さなくてはなりません。

 最新型と無償で交換してくれるとしても、どこか後ろ髪を引かれます。


 しかし決まりは決まりです。

数日後、女王様の魔法の鏡は最新型に取って代わりました。

 ピカピカの光り輝く鏡面は、見る角度によって虹色に見えます。

「鏡よ鏡、世界で一番美しいのは?」

女王様はドキドキしながら呼びかけます。


 固唾をのんで見守る女王の目の前で、鏡の表面が波立ちます。


 ピーーーーピョロロロロロローーーーーポー!!

 ピーーーーーピポポポポ!!


 最新型の魔法の鏡から怪音が響きます。

何でも5次元に接続して、ユーザーからの問に答える最新機能が備わっていると聞いていました。

「世界で一番美しいのは、ブルースカイバードです。極彩色の尾に真っ青な羽毛を持ち、さえずる言葉は万人の心に響き、時としてーーー」

「ホワァァァァァァァァァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァアアアアアアァァァァァァァァァアアア!!!!!」

己の美貌を保つため、規則正しく健康的な生活を送り、毎日の運動も欠かさなかった女王は奇声をあげながら後ろ向けにバターンと倒れ込みます。


 よもや鳥と比べられようとは!!

 彼女の真珠のような白い顔が絶望の色に塗りつぶされました。

 いや、確かに世界で一番美しいのは誰って聞かなかったな、などと己の過ちを振り返ります。

 たゆまぬ努力の末に守り抜いていた世界一の美貌を持つ女という自信が木っ端微塵に砕け散ります。

 同時にその青い鳥とやらに俄然興味が湧いてきました。


「これ、だれか! ブルースカイバードというものを連れて参れ!! 連れて参ったものには好きな願いを叶えてしんぜよう!!」

女王様の勅命はスマホのつぶやきアプリを通して世界中に広がります。

 このつぶやきは、色めき立った人々を森に、山に、砂漠に駆り立てました。


 世はまさに第二次青い鳥争奪時代となりました。


 しかし、説明を最後まで聞かなかった女王様は知りませんでした。

 例の青い鳥は実在しておらず、電子の世界にしかいないことを。


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