第17話

「じゃ、修さん。行きますか」


「どこに」


 あ、眉間に深い深いしわ。


「警察」


 どうしてわかっていないんだ? お兄ちゃんの顔から声が聞こえる。これ以上バカだと思われるのは兄弟としてどうだろう、と私は必死で頭を使った。


 兄弟かどうかはとりあえず、周りのみんなも真剣らしく、途端にとても静かになった。


 短いあいだ。やがて中尾から第一声。


「あぁ! 修さん大人だから」


「あ、そーか。修ちゃんは大人だね」


「もちろん西野はとっくの昔に大人だよ」


 私だけは気の毒に思って、何も言わないことにした。お兄ちゃんが職業っぽい声で言う。


「入っていい場所じゃないでしょう。ここは」


「おぉおぉ?」


 なんて表現したらいいか、修平はそんなようなことを言った。ことって言うか、それは悲鳴だから意味を成してるわけはない。


 込められた感情は刺さるみたいに痛いけど。


 センセイの大好きな夜の校舎は、センセイ抜きの笑いを聞いている。やがてセンセイも泣き笑い、やけくそで言うには、


「オレもとうとう犯罪者か。優れた探偵は紙一重だもんな」


 それに応えて中尾は言った。


「その轍みんなで踏みすぎだよね」


 西野修平――意外性の薄いミステリ作家。そんなレッテル貼り付けられて、作家の受けた精神的ダメージから導き出せば、中尾の発言、犯罪級かも。


 嘘ではなく夢でもなく警察車に連れてかれていくセンセイを見て、私はそんなことを考えていた。だけど未成年だし、名誉毀損はカテゴリーが違うみたい。


 

軽犯罪法『違反行為』第一条・抜粋

16.虚構の犯罪又は災害の事実を公務員に申し出た者

32.入ることを禁じた場所又は他人の田畑に正当な理由がなくて入った者

33.みだりに他人の家屋その他の工作物にはり札をし、若しくは他人の看板、禁札その他の標示物を取り除き、又はこれらの工作物若しくは標示物を汚した者


 と、言うとこか?


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佐々木君には関わらない @yutuki2022

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